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異世界薬局7 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

平均寿命を10年上げたい

情報

作者:高山理図

イラスト:keepout

試し読み:異世界薬局 7

ざっくりあらすじ

悪霊からの襲撃を受けた帝国は防戦一方であったが、ファルマの登場で微かに希望が見いだせた。しかし、ファルマの作った異世界薬局を守るために戦ったエレンが犠牲になってしまい……。

感想などなど

薬神であるファルマは神聖国にて、鎹によってすり潰されかけたところを救われた。この世界を存続させるためには、ファルマの犠牲が必要という主張は強ち間違いではないということが分かっただけでも大きな収穫であろう。

そんな中、帝国では厄介な事件が起きていた。

……いや、事件というよりは災害とでも呼称すべきだろうか。現代日本の科学では説明できない災害・悪霊の大量発生である。これまでの病気を初めとした事象は、現代科学でもある程度説明ができ、また対処もできるものが多かった。

しかし、神力という特殊な概念があるからこそ成立する事象に関して、ファルマは知識が乏しかった。膨大な神力量や、あらゆる元素を構築・消去できるチート神術を使えるが、実際に悪霊と戦って民衆を守るということに関して、ファルマはバックアップに努めることとなる。

例えば。

この世界では神力を使って動く機器の導力には、神力を蓄えておいた晶石を利用する。電気であれば発電機を作ってアレコレするが、この世界では人が神力を注ぐことで充電(充神?)することができる。ここでファルマの無尽蔵な神力がとても役に立つ。

当たり前のように空を滑空しているが、この神術もチートと言って良い。そんなファルマが帝国に戻ってきたことは、生き残り達にとっては暁光だった。ファルマもその期待に応える。

そんな中、ファルマは異世界薬局に倒れているエレンを発見する。

 

帝国の人達はファルマも教鞭を握っている大学に避難した。設備的な問題もあるし、大学には優秀な人達が多い。数少ない資源を駆使して、悪霊達の侵攻を食い止めていた様は第六巻でもしっかりと描かれている。

その大学にエレンはいなかった。ではどこにいたのかといえば、ファルマが街の人々のためを思って建てた異世界薬局である。彼女は身を挺して、調剤室や薬歴、カルテ、貴重な試薬を守っていたのだ。

エレンは「ここには、失うと代わりの利かないものがあるもの……」と命を賭して守ることを誓い、その役目を果たした。彼女の言うとおり、ここにあるものは聖泉から命がけで持ち帰った造れない薬だって確かにある。彼女の行動は、世界を救ったと胃って良いかもしれない。

床に広がった血溜まりが、エレンの傷の深さを物語っている。エレンはとっさに輸血を試みるが、血を保管していた保冷庫、冷凍庫の設備が壊れていたのだ。すっかり常温になって使い物にならなくなった血液を前にしたファルマの絶望感は、読者にも伝わってくる。

これまで幾度となく奇蹟を起こしてきたファルマは、また奇蹟を起こすことができるのだろうか。この第七巻は全体を通して山場が多いが、一番印象に残る山場はここであろう。

そんな感じで、第六巻から悪霊との死闘が描かれていくが、基本的にファルマ以外の面々の視点になることが多い。これまでファルマに救われてきた人達が活躍する様を見るのは、とても楽しい。

例えば。

白血病で苦しんだパッレは、その神術の才能を遺憾なく発揮している。ル・ルーはその尊爵の位に恥じぬ強さで民衆を守った。それぞれが自分のできる立場と役割で戦っている。

 

後半は比較的平和な日常が戻り、定期考査に苦しんだりといった話が描かれていく。そんな中でファルマは、前世で妹の命を奪った病気と遭遇する。その病気の名は膠芽腫、脳腫瘍の中で最も悪性度の高い腫瘍で、手術による全摘出は困難。平均寿命は十四ヶ月、五年生存率はわずかの八パーセント。

医療が発達した現代でも、この数字なのだから恐ろしい。ましてこの世界ではどのようにして治療することができるのか。苛烈な戦いが終わった後も、ファルマの戦いは終わらない。

山場の多い第七巻であった。

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