※ネタバレをしないように書いています。
魔王(演技)
情報
作者:むらさきゆきや
イラスト:鶴崎貴大
試し読み:異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術 (6)
ざっくりあらすじ
《宝物庫》で装備を整え、たとえ聖騎士が相手だろうと負ける気がしないディアブロは、意気揚々と王都へと乗り込む。しかし、彼らの前に立ち塞がったのは力を持たない教会の信者達であった。
感想などなど
ゲームではディアブロが作ったダンジョン最下層の護衛をしていた魔導機メイドの少女ロゼを仲間に加えた。さらには宝物庫に納められた優れた武具を装備し、完璧な状態となったディアブロ。これまでの装備が万全ではなかったというのは、それはそれは恐ろしい限りだ。
さて、領主ファニスに誘惑されたりしたが、何とかそれも抜け出して、王都へと向かうディアブロ一行。そこで彼らを出迎えたのは、かつては魔族に付き、魔王の復活に協力した聖騎士アリシアであった。
事前に手紙が出されていたこともあり、王都へ入ることは大きな問題もなくスムーズに進行。《王宮騎士団》の《七英傑》の一人、アレンに絡まれたりしたが、まぁ、大した問題には……ならないと思いたい。
そして問題は核心、王都の腐敗へと立ち入っていく。
これが聞いていて、あまり気分の良い物ではない。教会の腐りやすい体制――例えば不正があっても報告する相手がいない。教会で起きた問題は教会の裁判所が裁く決まりになっている――が当たり前のように受け入れられている。
幹部である枢教院7名が、多額の寄付を受け取りながらも個人の資産にしているのだという。そして下々の者達には質素倹約を敷きつつ、私腹を肥やし続け、教会自体は常に赤字状態という状況だった。潰れることのない教会だからこそできる芸当だろう。
そして何より、教会のトップである聖女ルキマーナが殺されかけたという事実が大きい。
そんな腐った人間に、血の制裁を! とたぎった目で言う乙女はアリシアである。彼女が悪魔を崇拝するようになったのは、なによりも腐敗を許せない正義の心が発端なのかもしれないと思うと、どうにも心が痛くなる。
これほど腐っているならば、たしかに一度こわしつくす必要があるかもしれない。(まだ作戦も何も考えてないけど)ディアブロは自分が動くべきだろう、と重い腰を上げた。
しかし、それを止めたのは意外にもルキマーナだった。
「私に、もう一度だけ機会を与えて下さいませんか?」と。
ルキマーナのとった行動は、正面から証拠を突きつけて破門を言い渡す――だけであった。敵からしてみれば、鴨が葱を背負ってやって来たようなものだろう。前々から殺そうとしていた相手が、「殺してくれ」と言わんばかりの幾らでも握りつぶせる証拠を持ってやって来たのだから。
当然、彼女は逆に言い返され、涙を流した挙げ句に負けた。
そんな状況になっても、ディアブロの力を使えば脱出することも容易だっただろう。周囲にいるのは教会の弱い信者ばかり。戦って負ける道理はない。それでもルキマーナは教会を血で汚したくないと、ディアブロに戦わないで欲しいという意思を伝えた。
ディアブロはあくまでルキマーナの補助。彼女の意思を曲げてまでも、行動を取るべきではない……そういう判断の下、彼もルキマーナと共に檻に入れられるに至った。
これでいいのだろうか?
このまま行けばルキマーナは反逆の罪で死刑。彼女は最期まで、幹部連中に罪を償うように声を荒げ続けるだろう。たとえ声が涸れようと、どんなに傷つけられようと。それは立派なことかもしれない。
だが、本当にこれでいいのだろうか?
ディアブロの迷いを断ち切り、目を覚まさせたのは意外にもホルンという少女であった。
ここから始まるディアブロの躍進劇。つまりは聖騎士(レベル100)と魔王(レベル150)との戦いである。ただ力でねじ伏せるかと思いきや、信者達は殺さないように最善の注意を払ったり、魔王としてのロールプレイを忘れない当たり、流石は魔王様といったところ。
そして出来上がる教会も藻屑の山。彼からしてみれば簡単にできることだが、ルキマーナからしてみれば見たくなかった光景であろう。
そんな時、教会に血が流れることを嫌ったルキマーナのとった行動は、ディアブロと読者の予想を大きく裏切るものとなることを約束しよう。ディアブロのみならず、ホルンにルキマーナ達の成長も描かれた第六巻であった。