工大生のメモ帳

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百錬の覇王と聖約の戦乙女 感想

※ネタバレをしないように書いています。

現代の知識を使って生き抜く異世界

情報

作者:鷹山誠一

イラスト:ゆきさん

ざっくりあらすじ

戦乱の世界に飛ばされた主人公、周防勇斗は、現代知識を武器に数千の軍勢を率いる宗主にまで上り詰めた。しかし安心している間もなく、戦乱の世界は牙をむいてくる。

感想などなど

異世界転生。テンプレとしてラノベ界を賑わせているジャンルである。有名どころだと「この素晴らしき世界に祝福を」「ゼロの使い魔」「無職転生」だろうか。その多くがアニメ化を果たし、今回感想を書くことになる本作もアニメ化を果たした。友人曰く「なんとも言えない」とどっち付かずの感想を貰ったが、皆さんはどうだろうか。

異世界転生にも色々とジャンルが存在する。詳しくはないが、「タタの魔法使い」のような作品は転移系、「ゼロの使い魔」は召喚系、「無職転生」は転生系に入るらしい(要出典)。

今回は召喚系に属す。いわゆる異世界の人間が、こちら側の人間を何らかの理由で召喚してしまった系である。

とりあえず、主人公周防勇斗が召喚された世界の説明をざっくりとだが、させていただきたい。でなければこの作品の魅力を伝えることは難しいのだ。

 

まず当然ながら技術レベルは現代よりもかなり低い。どれくらい低いのか、説明として紙がまだ存在していないと言えば分かって貰えるだろうか。少なくとも2000年よりは昔の技術を何となく想像してくれればいい。

そして魔法がない。これはかなり珍しいのではないだろうか。「じゃあ、どうやって召喚したんだよ!」と突っ込みたいかも知れないが、そういった疑問は一巻では解消されないので置いておこう。

大抵の異世界転生では主人公の魔法適性が異常に高かったりすることで無双することが多いが本作では違う。

良く売れる異世界転生は、この「どう無双していくか」に焦点が当てられ、作者は工夫を凝らしていく。本作は「現代よりも技術レベルがかなり劣った世界が舞台」であり「魔法がない」という点が重要になってくる。

そして、主人公は身体能力が高いわけでもない。水が違って腹を壊すくらいだ。どこにでもいる普通の日本人と体の作りは同じである。

ではどうやって無双していくのか。

彼は現代の知識を駆使して、この異世界を生きていく。

 

「どこにでもいる一般の高校生が一体どうやって現代知識で無双できるんだよ!」

その突っ込みはごもっともである。自分だって異世界に行ったところで、大学で習った知識が役立つとは思えない。「プログラミングできます!」と言っても、その知識は今回行く異世界ではゴミ同然だろう。

しかし彼は人と違うところがあった。なんと……スマホを持って行っていたのである!

恐ろしい……秒で必要なことを教えてくれるグーグル先生が仲間であれば、何と心強いことか。

……まぁ、世の中そう上手くいかないのが常である。

まずネットが繋がらない。これは当たり前だ。異世界に現代世界と同じ人工衛星が飛んでいるならば、それはSF作品に早変わりしてしまう。

一箇所だけ現代社会と通信できる場所があって、どうしても必要な情報がそこで一気に集めるのだが、その辺の詳しい説明は本編にお任せしよう。つまりいつでも好きなときに好きな情報を手に入れられない、ということが分かって貰えれば良い。

そして充電が好き放題にできない。紙すら存在しない世界に電気が通っていたならば、それは色々とおかしいことは分かって貰えるだろう。ではどうやってスマホを使うのか、と言えば太陽光パネル付きの充電器を偶然持っていたので充電ができるのだという。今後、自分が異世界に飛ばされた時のために買っておくことにした。

というわけで、制約された現代の情報を駆使して異世界を生きていく物語となっている。

 

情報は武器である、と誰かが言っていた。また使う人によっては薬にも毒にもなるとも言っていた。

つまり現代の知識があるからと言って、異世界で無双できるとは限らないということだ。異世界の人々と、それなりの関係性を築き上げなければ、生きていくことはままならない。まして主人公は身体能力的には最弱なのであるから、なおさら人々の助けを得なければいけない。

そんな主人公の努力の甲斐あって、住まわせて貰っている族の長になったのだから驚きである。異世界でも通用するコミュ力が最近は必要とされているのだろうか。

そんな長になるまでの苦労エピソードはたくさんあるはずなのだが、回想でチラリとしか語られないのがちょっと残念だったりする。そこは今後に期待したい。

今回は部族の長として他の部族と戦う。つまりは戦争だ。彼の指示通りに部下達が動き敵と戦っていく。異世界から来たという彼に、族の命運は託されているのだ。

その戦いで現代知識が小出しにされ、上手い具合に勝っていく。その現代知識を出す減のさじ加減が旨い。なるほど、と度々思わされた。敵が決して無能ではないというのも(まぁ、あくまでその時代ではだが)、読んでいてハラハラさせられる。

王道のなろう的異世界物として、かなり面白い。主人公も変に感情を失っていないので、そういったストレスも特にない。ラノベ異世界入門としてはかなりいいのではないだろうか?