工大生のメモ帳

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【小説】老人と海 感想

※ネタバレをしないように書いています。

自然との闘争

情報

作者:ヘミングウェイ

翻訳:高見浩

試し読み:老人と海(新潮文庫)

ざっくりあらすじ

八四日間の不漁の後、弟子である少年に見送られて、一人で海へと向かった。そこで巨大なカジキマグロという大物がかかるが――。

感想などなど

漁師は老いていた。

その道を究めた男というのは、生き様で語るものだ。

八四日の不漁に苛まれ、弟子である少年は親に説得され別の船に乗り込むことになろうとも、男は今日も船に乗って海へと繰り出す。そこでの死闘、自然から課される試練へと真っ向から立ち向かう男の生き様が、力強い文章で描かれる。

本を読んでいて心が動かされるのは、何よりもその文章だ。

皆さんは船に乗って海へと漕ぎ出したことはあるだろうか。海というのは水平線の彼方まで無限に続くように思えるような代わり映えしない風景が続く世界に見える。しかし何十年と海と戦い続けた男にとってすれば、そこは常に顔色を変える世界に他ならず、波の流れや太陽や星の向き、海鳥の動きなどの緻密な描写一つ一つから、漁師から見た海というものが巧みに描かれている。

陸にかかる雲が山のように湧き上がってきた。沿岸は灰青色の山並みを背負った、長い緑色の線としか見えない。青い海水もくろずんできて、いまはほとんど紫色だ。見下ろすと暗い水中に、ふるいにかけてまき散らしたように赤いプランクトンの雲がむらがっている。そこでは陽光も奇妙な輝きを帯びていた。

巨大なカジキマグロに遭遇してからの死闘も、互いにどちらかが動かなくなるまでの苛烈なものであった。

戦いの概要としては、カジキマグロがかかって引っ張られる網を握りしめ、逃げ惑うカジキの体力を奪い続け、動かなくなったところを引っ張り上げるというもの。こう聞くと単純な戦いに想われるかもしれないが、糸に急に強く引っ張られると皮膚が切れる。どんどんと沖から離れていけば行くほど、人間の体力は奪われていく。簡単に睡眠や食事も取れない。

途中、左手が攣って動かなくなる。片手でマグロを捌いて食べる。水分はその魚から取るしかない。食料もそれほど残っていない。これ以上、カジキマグロに引っ張られ続けていては死んでいてもおかしくない。

しかも孤独。誰も彼のこの戦いのことは知らない。

 

老人はライオンの夢をずっと見ているらしい。

本作に出てくる老いた漁師は、老いても尚、巨大なカジキマグロのような巨大な釣果を狙い続ける。弟子である少年は釣果がないことを両親に咎められ、きっと彼にも生活があるのだろう――別の調子が良い船に乗せて貰えることになった。

それは仕方の無いことだと老人は語る。あの船は調子買いから、まだ良い釣果が続くだろうと、この老人の語ることは信頼感がある。

そんな彼の実力があれば、もっと無難な釣果で生活するという道もあるはずだ。それでも巨大な釣果のために、自然に挑み続ける。抗えない老いの中で、自然に挑み続ける姿勢だけは老いてない。

 

海外文学は読みにくいというイメージがあるかと想うが、この本はヘミングウェイの小説の中でもかなり読みやすい部類だと思う。ヘミングウェイの文体は心情描写は文章にしないハードボイルド文体が特徴とされるが、本著『老人と海』は老人の心の声なども文章にかなり出てくる。

登場人物らしい登場人物も、老人と弟子である少年くらいなもので複雑さはない。ただ純粋な老人と海との戦いが描かれる。そのシンプルさが実にカッコいい。

男の生き様、自然の雄大さ……あらゆるカッコいいが詰まった小説だった。