工大生のメモ帳

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花咲けるエリアルフォース 感想

作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

桜による最強兵器

情報

作者:杉井光

イラスト:るろお

ざっくりあらすじ

街も家族も戦争で焼かれた仁川の前に現れたのは、桜色に輝く不思議な飛行兵器と、そのパイロットである少女・桜子であった。彼女が言うには、彼もまた桜花と呼ばれる飛行兵器の適合パイロットと選ばれたらしい……。

感想などなど

桜と聞いて、日本人は数多くのことを思い浮かべる。春、入学、卒業、花見、公園……それぞれに思い出があることだろう。花弁舞い散る光景が、脳裏で容易に再現することが可能である。

さて、桜といえばソメイヨシノという品種が有名だ。知らないという方も、ポピュラーな桜を一本思い浮かべれば、大抵それがソメイヨシノなのでそう思って欲しい。ちなみに、サクラの開花予想で利用される標準木もソメイヨシノである。

本作では、そんなソメイヨシノが持っている不思議な力により生み出された飛行兵器と、悲しく切ない戦争の物語である。

 

舞台は日本。状況としては東西に別れての紛争が巻き起こっている。主人公である仁川佑樹も、戦争の惨禍に巻き込まれて全てを失った一人だ。冒頭では眼前で校舎が焼かれ、目の前で美しく咲き誇っていた桜(ソメイヨシノ)が、燃えて灰と消えていく光景を目の当たりにすることとなる。

その後、彼は引っ越しという名の疎開を繰り返し、友達など作っている余裕もない忙しい時を過ごす。いつまでこんなことが続くのだろう? と一介の学生が考えたところで状況が好転するはずもなく、紛争は終わりの見えない泥沼へと脚を突っ込んでいた。

正確には戦争ではなく、国内で起こっている反乱ということだったのだが、その戦況は東西の代理戦争にまで発展しつつあり、終わりも落としどころも決まる様子がない。ニュースで流れる戦死者の数は留まるところを知らなかった。

そんな先の見えない日常は、突如として終わりを告げる。

不思議な輝きを放つ飛行兵器が、仁川のいる学校の校庭に降り立った。本来の戦闘機というのは、降り立つ際に滑走路が必要となる。この時点で飛行兵器の異常性というものは、何となく分かっていただけるだろう。

さらにそこから降りてきた人物が、可愛らしい美少女であるのだから驚きは二倍となる。何事か、と考える間もなく、彼は彼女の飛行機に連れ込まれて空を飛び立つこととなる。

彼女が乗っていた飛行兵器の名は《桜花》。ソメイヨシノの不思議パワーで作られた最強兵器である。

 

ソメイヨシノの不思議パワーに関して、作中で様々な言葉を弄して説明しようとしてくれているが、正直言うと良く分からない。時間が止まるとか、流されるとか……まぁ、色々あるらしい。

ただし、飛行兵器を乗りこなすことのできる人間は、ソメイヨシノが燃えていくという情景を強烈な記憶として持っているという共通項がある。どうやら冒頭でソメイヨシノが焼かれていく光景を見ていたことが、仁川が適合者として選ばれた要因であるらしい。

そんな限られた人間にしか乗りこなせない《桜花》は無敵であった。なにせ理論上は ”絶対に落とされることがない” のだから。

まず《桜花》にはミサイルというような兵器を持たせることはできない。唯一にして絶対の攻撃手段は、なんと体当たりである。敵にぶつかっていくことで、《桜花》に受けるダメージはゼロ。相手だけが木っ端微塵になるのだから、理論上は ”絶対に落とされることがない” という言葉の意味も分かって貰えるだろう。

しかし欠点もある。一定時間以上、《桜花》を操縦すると、意識が飛ばされてしまう。いや飛ばされる程度の生やさしいものではない。永遠に等しい時間に飛ばされ、死ぬこともできない永遠へと送られてしまう……作中で「地獄の方がマシ」だと語られていた。

だが、逆に行ってしまえばデメリットはそれしかない。パイロットは戦場に駆り立てられて、今日も敵に突っ込んでいく。

 

そんなパイロットの一人、桜子。彼女には名字がない。この日本において名字がない方は天皇家しかいらっしゃらない。桜子は日本という国のトップであらせられる方だった。

そんな方が何故《桜花》に乗っている? 

敵を落としている?

彼女はその答えを何度も、何度も、何度もしつこいくらいに語っている。まるで自分に言い聞かせるように。

この国での死んでいく者達の責任は全て私。この国のトップだから、泣くことなんて許されない……そんな彼女のために、今日も誰かが戦死していく。

作中にずっと漂う切ない雰囲気。戦争の最中、ずっと笑うことができる人がいるならば、それはある意味狂っているのかもしれない。

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