工大生のメモ帳

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葉桜が来た夏 感想

【前:な し】【第一巻:ここ】【次:第二巻】
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※ネタバレをしないように書いています。

憎しみの連鎖

情報

作者:夏海公司

イラスト:森井しづき

ざっくりあらすじ

アポストリと呼ばれる優れた身体能力と科学技術を持った、女性しか存在しない異星人。目が赤いほかは外見的特徴は人間と同じ。琵琶湖周辺は彼らと人間が共存する居留区となっていた。

感想などなど

人と人ならざる存在が共存する世界での作品というものは多数存在する。そういった作品では、ストーリーの軸として差別が描かれることが多いものだ。

本作も例外ではない。

人類と、地球に突如としてやって来たアポストリ間での歴史や差別というものが重要になってくる。

冒頭にて地球に落下してくる十字架と、その十字架からの攻撃を受け死んでいく人々の様子が描かれる。その十字架こそが、アポストリ達が乗っていた宇宙船であった。その力というものは絶大で、一端戦争が終結するまでの間に何十万人という人々が亡くなった。

アポストリと人類の間には、科学技術と身体能力に絶望的なまでに差が存在した。

例えば。

宇宙船には核爆弾がぶつけられた。しかし宇宙船には傷一つ付けることができなかった。無論、その他銃火器を用いても意味をなさなかった。

宇宙船から降り立ったアポストリ達も、見た目は麗しい女性であっても、多少の傷であれば修復してしまうような治癒能力を持ち、銃を持った人間と素手で殺し合えるような身体能力を持っていた。

そんな勝ち目がないように思われるアポストリとどのようにして終戦にこじつけることができたのか?

理由を一つだけに絞ることはできないが、その一つとして、アポストリの弱点の一つが分かったということが挙げられる。どうやら銀に触れていると、治癒能力が使えなくなるらしいのだ。上空から銀膜をばらまき少しだけ、そう、本当に少しだけ有利になった人間との戦いを終え十数年――主人公である南方学は、アポストリと人類が共存する琵琶湖周辺にて生活していた。

しかし、平和というのは次の戦争までの間を示す期間に過ぎないということを知る由もなかった。

 

……とりあえずアポストリと人類の間の関係性というものをざっくりと理解して貰えたのではないだろうか。

戦争が終わって、「はい! 仲良くしてね!」と言って無理に握手させられても仲良くできないことは歴史が証明している。これまで虐めてきた相手と仲良くできるか? と問われて迷わず首を縦に振ることができる人間がいないように。

南方学は特にアポストリに対して強すぎる程に憎しみを抱いていた。理由は戦争があったという歴史的な理由だけではない。

作中の回想にて。妹の誕生日、学校から急いで家に戻ってみるとリビングは血で真っ赤に染まっていたシーンが挟まれる。犯人の目はアポストリの特徴である赤色をしていた。つまりアポストリに家族を皆殺しにされた過去があるのである。

しかも片腕のアポストリが犯人であるという学の証言は政治的観点から揉み消された。どうやらアポストリと人類が対立するような状況を生み出したくなかったらしい。

彼の行き場のない怒りや憎しみは、アポストリ達に向けられた。

そんな彼の元に、アポストリと “共棲” するシステム(アポストリと同棲するという認識で問題ない)に則り、一人のアポストリが派遣されてくる。

彼女の名前こそが、タイトルにもなっている葉桜であった。

アポストリ達を憎んで、憎んで、憎んでも憎みきれない学が、彼女と簡単に仲良くなれるはずもない。彼女に向ける目は怨嗟に満ち、発する言葉は棘があった。人によっては彼の言動に苛立ちを募らせるかもしれない……という程に。

 

さて、これまで長々と人間視点ばかりで情報を書き連ねてきた。ここで少しばかりアポストリ達視点にも着目していきたい。

宇宙船に乗って地球へとやって来た彼女達。すると核爆弾がいきなりぶつけられる。このままでは殺されてしまう、相手の技術力が分からないので全力で反撃を行っていく。どうやら技術力は大したことがないようだが馬鹿ではない。こちらの弱点を発見した上、数も圧倒的に多いようだ。

このまま行くと数で互いが莫大な犠牲者を出してしまう……。

戦争では人類もアポストリ達も互いに多くの犠牲を出した。憎しみを抱いていたのは、どうやら人類側だけではないようだ。当たり前のことではあるが、本作の主人公はそのことに気付かない。

互いの憎しみに折り合いをつけるために、政治があり、法がある。心情よりも優先すべきものを抱き戦う大人達がたくさん登場する。これは主人公が大事なことに気付き、大事なものを守るために成長を遂げる物語だ(少し駆け足感は否めないが)。そして、アポストリと人類が歩む歴史の転換期とも呼べるかもしれない。

最初と最後、見ている世界がガラッと変わる。怨嗟に満ちた学の目が、どう変わっていくのかを見届けてあげて欲しい。

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