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葉桜が来た夏2 星祭のロンド 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

憎しみの連鎖

情報

作者:夏海公司

イラスト:森井しづき

ざっくりあらすじ

アポストリと呼ばれる優れた身体能力と科学技術を持った、女性しか存在しない異星人達との居住区で生活する南方学。人間とアポストリとの交流フォーラムが開催される東京にやって来た葉桜と彼は、そこで星野友深と名乗る奇妙な少女と出会う。

感想などなど

政治的な側面を色濃く醸し出す本作の第一巻は、〈片腕〉の死という形で幕を閉じた。しかし、彼・彼女による戦いというものは続いていくことになる。人類とアポストリの間を取り持つ存在に、学と葉桜の二人がなってくれることを願うしかない。

その記念すべき第一歩として、東京で開催される交流フォーラムに参加することになった。大勢の記者や客達に囲まれ、黙って微笑んでいれば可愛らしい葉桜と、普通が仏頂面の学は質問攻めにあう。

まぁ、そういう催しなのだから仕方ないことではあるのだが。皆が気にしているのは、二人の男女が制度に則って共棲しているということ。学校でも家でも常に一緒にいることになるというのは、どうにも好奇の視線に晒されるらしい。

「恋人みたい!」「愛し合ってるんですよね?」と言った女子生徒達のことを非難することは誰にもできまい。そう思ってしまうことは仕方ないだろう。そんな言葉に晒されて、顔を真っ赤にして口をアワアワさせている葉桜は、少なくとも嫌悪感を露わにしている様子はない。というか可愛い。

だからこそ「誰がこんなやつなんか」と言った学は殺されても文句はいえない。ふぅ、危うく死体が一つ増えるところだった。

 

つまりは葉桜から学への淡い恋心が露骨に描かれていく。最初は嫌いあっていた関係性にも関わらず、辛いときに寄り添ってくれた彼に次第に心を開いていたのだろう。制度上の義務としての彼を守るという誓いは、心の底から彼を守りたいという彼女自身の意思に変わっている。

そんな本気で守りたいと思える唯一の相手の前に、星野友深という可愛らしい少女が現れた。細身の身体に、大きな瞳。ボクという一人称に、妙に近い距離感。はい、つまりは可愛い。

理由は良く分からないが焦っているらしい彼女。フォーラムでやって来ていた東京のホテルの部屋にまで窓から入って来てまで、「南方大使と連絡をとって欲しい」と告げてくる。

つまりは学の父親と連絡をとりたいのだ、と。

……いやいや、待て待て。学の父は大使ということもあり、検索すれば公的なアポイントが取るための連絡先というものは出てくる。それを使えばいいだろう? というごく当たり前の正論を投げかける学。急ぎであれば尚更である。例え気にくわない相手であろうとも、連絡先を赤の他人に教えるというのも気が引ける。

しかし星野友深は「それでは駄目だ」と告げる。その理由はすぐに判明することとなる。

 

すると出てくるわ、出てくるわ。陸上自衛隊や警察が、友深もろとも学も葉桜も殺す勢いで攻撃してくる国家権力の数々。今回争うことになる敵の強大さというものに愕然とさせられる。

その中でも〈渦巻き〉という人間は群を抜いてヤバい。人間のくせに、アポストリをナイフと拳銃で圧倒していく。まさしくアポストリを殺すためだけに現れたような殺人快楽者と呼ぶのが相応しい。

拳銃で頭を撃たれてもケロッとして、傷も瞬時に癒えていくような超再生能力を持ち、人間を遙かに凌駕しているはずの身体能力の持ち主であるアポストリに対して、ここまで人間が戦えるようになるのか……という驚きと絶望感を味わえる。

本作の楽しいポイントは、そんな一人の最強すぎる人間とアポストリの対決と、葉桜と学の関係性が一巻よりも遙かに進展していくというラブコメ要素、いつ殺されてもおかしくない状況を切る抜けていくドキドキハラハラな展開にある。

星野の正体とは? 命を狙われる理由とは? 学の父と連絡をとろうとした理由とは? 数々の疑問の答えは終盤に一気に解消されていく。

学という冷静に見えて、熱血漢である彼の無茶苦茶とも思える行動と、それに振り回されながら期待に応える行動をしてくれる葉桜。口喧嘩することもあるが、二人はとてもお似合いのカップルだ。

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