※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
憎しみの連鎖
情報
作者:夏海公司
イラスト:森井しづき
ざっくりあらすじ
アポストリの本拠地〈十字架〉付近に浮かぶ多景島に、社会科見学で訪れた学と葉桜。そこで金髪の少女と出会う。白夜と名乗る彼女は葉桜を呼び、葉桜もまた彼女を呼んだ。その出会いから葉桜の態度は豹変し、予想外の事態へと発展する。
感想などなど
政治的な難しい話を交えつつ展開させてきた本シリーズ。それぞれの陣営というものの関係性や目的というものを知らなければ、本当の意味で物語を理解できたとは言えないだろう。
しかしこの第三巻はかなり政治色の薄いストーリーとなっている。いや、それでは語弊があるか。アポストリと人類が戦争をし、その結果交わされた協定というものが、本作で巻き起こる事件の原因なのだというネタバレを、ここに記しておく。
だからといって誰が悪いという話でもない。誰もが最善を尽くし、そこには恨みも憎しみもない。多くの死人と、一歩間違えれば街一つ……いや、日本という国の将来すら危うかった事件の真相としては、あまりに儚いものだった。
というように書いたが、その事件が起こり、その凶悪な牙を露わにして、物語が大きく動き出すのは後半になってからである。前半部では、社会科見学で出会った奇妙な少女・白夜との出会いと、そこから始まるちょっとした日常というものが綴られていく。
まず白夜という少女……金髪で幼い外見、遺伝子の調査でアポストリであると診断された彼女が、どうして奇妙なのかという点について説明したい。
まず彼女は葉桜を何故か知っていた。いきなり出会った瞬間に、葉桜という名を呼ぶのだから驚きである。初対面だと思っていたら、相手は自分の名前を知っていたという驚きを想像して欲しい。それはリアルな怖さがある。
また彼女には戸籍というものがなかった。アポストリの場合、戸籍という呼び名は相応しくないかもしれないが。つまりは両親、身請け引き取り人がいないのである。
他にもアポストリと考えても、遺伝子構成が奇妙であったり、白夜との出会いにより葉桜の態度が豹変してしまうことや、学のことをドロボーと呼称するなどおかしな点は多い。
しかし可愛い。だから許す。何だろう、可愛いって正義なんだなって。
本シリーズは読んでいて、急激に状況が変わる展開が多い。第一巻は(比較的)穏やかな展開ではあったが、〈片腕〉の正体が判明してからの展開は駆け足だった印象が強い。二巻におけるキーウーマンであった星祭の正体が判明してからの、事態が収拾するまでの流れもかなり詰め込まれていたように感じる。
そして第三巻も、日常がたった一つのシーンから瓦解していく。それがどんなシーンなのかは読んでからのお楽しみにして欲しい。ブログ主は「……ん? ページ読み飛ばしたかな?」と思わず読み返してしまった。
すっかり人として成長を遂げてしまった学。彼特有の理屈をこねくり回しまくった結果に起こす捻くれまくった行動も顕在。先の読めない作品だった……いや、葉桜シリーズとして考えると簡単なのかもしれない。