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【漫画】葬送のフリーレン(1) 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

終わりから始まる物語

情報

原作:山田鐘人

作画:アベツカサ

試し読み:葬送のフリーレン (1)

ざっくりあらすじ

魔王を倒した勇者パーティの一人、魔法使いのエルフ・フリーレン。他のパーティメンバーが寿命で死んでいくなか、これからの世界を生きていくフリーレンの後日譚ファンタジー。

感想などなど

10年もあれば、小学校の入学から高校入学までできてしまう。新卒で入社した新人も、すっかり社会人としての貫禄が出て、結婚して子供の一人や二人いたとしてもおかしくない年月である。

それほどの年月をかけ、勇者ヒンメル、戦士アイゼン、僧侶ハイター、魔法使いフリーレンの四人は、魔王を討伐した。10年もかかってしまったと感じるか、たった10年で討伐できてしまったと感じるか……あなたはどう感じるだろうか。

しかし、10年もあれば人を変えるには十分すぎる歳月というのは、多くの人が共感してくれるのではないだろうか。子供が大人にという単純な成長ではなく、大人の思想や考え方を変えるという意味で。

それは数千年という時を生きるエルフにとっても変わりはない。エルフにとって10年はあっという間だと口で語っても、その濃密な経験は、これからを生きる礎となる。その後日談が、本作『葬送のフリーレン』である。

 

勇者ヒンメル、戦士アイゼン、僧侶ハイター、魔法使いフリーレン。

先ほども書いた通り、魔王討伐したメンバーである。主人公である魔法使いフリーレンはエルフであり、彼女にとっての10年はあっという間と言っても過言ではない。なにせ1000年くらいは生きているのだから。

しかし仲間であるヒンメルとハイターはそれぞれ人間。アイゼンはドワーフで寿命は300年ほどで、エルフには遠く及ばない。本編は魔王討伐してから80年後を描いており、かつては魔王を倒したヒンメルもアイゼンもハイターも、かつての力は失って老人と化していた。

そんな中、いずれは訪れるヒンメルの死去。彼の葬式には多くの者が参列し、中にはハイターやアイゼン、フリーレンも含まれていた。誰もがかつての英雄の死を悲しみ涙を流す。

エルフのフリーレンにとって、たった10年を一緒に過ごしただけのかつての仲間ヒンメルの死は、悲しむようなイベントなのだろうか。これまで死別した人間は数多くいたはずである。エルフにとっての人間は、あっという間に死んでしまう存在に過ぎない。

しかし、フリーレンは涙を流した。

「……人間の寿命は短いってわかっていたのに…なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう」

この一言に込められた後悔が、これから先の物語の方向性を決める指針となっている。もう後悔しないために、もっと人間を知るために、この物語は終わりから始まっていく。

 

魔王を討伐したというだけあって、勇者ヒンメル共々、フリーレンも含めてかなり強い。ただそれぞれ老いには勝てない。ヒンメルはあっさりと寿命で死んだように、僧侶ハイターも長年の飲酒がたたって死期が近づきつつあり、アイゼンも肉体の衰えには逆らえなかった。

ただ一人フリーレンだけが生き残り、これから先の長い年月を生きていく。

ヒンメルの死を境に、フリーレンの行動は大きく変わった。ハイターのところに顔を出し、アイゼンのところにも顔を出した。そしてそれぞれに「お願いがないか?」と訪ね、彼らのお願いには答えるように努めた。

その内の一つが、ハイターにお願いされた「弟子をとって欲しい」というものだ。ハイターはフェルンという孤児を引き取り、魔法を教えていた。彼女には才能があり、是非ともフリーレンの弟子になって欲しいと願ったのだ。

しかしフリーレンは断る。「足手まといになるから」と。

フリーレンとフェルンの間では、大きな実力差がある。これは単純に長い年月の積み重ねによる差であろう。どう足掻いたって、足手まといになることは目に見えた。そう語ったはずの彼女の心が変化していく過程が、丁寧に描かれていく。

この一巻を通して、長い年月が経ち、そして死んでいく。それでも彼らの思いや意思、行ってきた行動はどこかに残されていく。そのリレーのような連鎖が、心を揺さぶってくる。

何度も読み返したくなるような漫画だった。

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