※ネタバレをしないように書いています。
終わりから始まる物語
情報
原作:山田鐘人
作画:アベツカサ
試し読み:葬送のフリーレン(10)
ざっくりあらすじ
七崩賢の一人・黄金郷のマハトの記憶を解析し、『万物を黄金に変える魔法』を解除する方法を探るフリーレン。人との共存を本気で考えるマハトは、どうして人に仕え、どうして街を黄金に変えたのか? マハトの過去が解き明かされる。
感想などなど
魔族とは人と似たような姿をし、人語を話し、人の心に取り入るのが上手い生物だ。
これまで魔族に騙されて喰われた人や、魔族に良いように手玉に取られた人などを数多く見てきた。魔族からしてみれば、人は捕食対象であり、最も捕食しやすい姿や考え方に進化を遂げた結果が今なのだろう。
そのような成り立ちならば、人と魔族が分かりあうことなど一生無理だと思う。肉体に代々刻まれた抗えない宿命なのだろう。
それでも人類との共存を本気で考える魔族が二人いた。一人はかつてヒンメル率いる勇者パーティが討伐した魔王と、七崩賢の一人・黄金郷のマハトである。
彼らが模索した人類との共存は、共通してまずは人類の殺戮から始まっている。人を知るという目的のために人を殺すのだ。もうこの時点で分かり合うことは不可能だと分かるが、マハトは本気だ。
人が人を殺さないのは、罪悪感といった一言では言い表せない複雑な感情が入り乱れた結果だ。法律がどうとか言うが、宗教がどうとか言うが、普通は人と接する上で殺しという選択肢は浮上してこない。
知人が殺されれば、復讐心も芽生えるだろう。ただ魔族は魔王が殺されたからとはいえ、報復の戦いを始めようとはしていない。圧倒的な力でまとめ上げられていたに過ぎず、魔族同士だから一緒に戦うという同族意識は存在しない。
魔族にはそういったことが理解できないのだろう。
人と魔族は根本的に違うのだ。
個人主義の魔族を束ねるには恐怖を使うしかない。
魔族とはそういう風に出来ている。
そんな魔族の特性に抗うように、マハトが人の持っている罪悪感を初めとした心を理解しようと努めたのは事実だ。やり方は卑劣極まりない。
生き残りの少年と少女にコロし合いを命じ、生き残った方を見逃してやると告げる。すると少女は斬りかかる振りをして、少年に自らを○させた。残された少年は、おそらく罪悪感を覚えている――とマハトは結論づけた。
これにより罪悪感という自らの理解出来ない感情に一歩近づいた訳だ。
そんなマハトも運命的な出会いを果たす。城塞都市ヴァイゼの領主グリュックである。
グリュックはかなり変な男である。彼の部下はマハトに全滅させられ、唯一の生き残りの彼はマハトという圧倒的な魔族を前にタバコを一服吸わせて貰えないかとお願いした。
そんな変人・グリュックにマハトは自らが持つことのできない「悪意」や「罪悪感」について質問を投げかけた。奇妙な光景である。純粋な疑問を投げかける魔族と、それについて自分なりに考えて答えを返すグリュック。
二人の奇妙な会話は是非とも読んでみて欲しい。要約をここに並べることは楽だが、無気力なようにも思えるグリュックの表情、彼の言葉を面白そうに聞くマハト……この不思議な空気を経ることで紡がれる関係性は、この会話を読まないと理解できない。
結論だけ述べると、マハトはグリュックに仕えることになった。
マハトは「私にも長い時間を共に過ごした人間の知人がいれば、復讐心などといった感情が理解できるかもしれない」と考えた。だからこそ城塞都市ヴァイゼの領主グリュックに仕え、貴族の中に溶け込んでいた。
マハトの回想を見る限り、立派に忠実に領主グリュックに仕えているように周囲には見えていたのだろう。それもそのはず、そもそも魔族は「そう見える」ように取り繕うのが上手い。
そんなマハトを真に理解していたのは、グリュックだけだった。そんなグリュックの最期の言葉は。
楽しかったよ。マハト
記憶の解析を通じて、街を戻す方法を探るフリーレンは動けない。しかし、それでも魔族はやってくる。相手はソリテールという無名の魔族。無名であれば弱いじゃないか、と思われるかもしれない。
実際は違う。
無名であるということは、名前を知った者は例外なく消えたということだ。誰もその魔族から逃れることのできなかったということだ。この戦いの行く末は全てフリーレンの解析結果に懸かっている。
いつ誰が死んでもおかしくない。緊張感のある第十巻であった。
