※ネタバレをしないように書いています。
終わりから始まる物語
情報
原作:山田鐘人
作画:アベツカサ
試し読み:葬送のフリーレン (3)
ざっくりあらすじ
七崩賢の一人・断頭台のアウラとフリーレンが激突。街に残ったフェルンシュタルクは魔族・リュグナーとの戦闘を繰り広げる。この街の運命やいかに――。
感想などなど
魔族とは、人を喰うために人語を操る種族だ。
人の情に訴えかけるような言葉を並べ立て、油断したところを攻撃してくる。そんな絶対に油断してはならない相手ということを、第二巻では痛感させられた。街中で見かけた魔族に迷わず魔法を放とうとしたフリーレンが正しかったのだ。
そんなフリーレンを警戒しつつ、領主と話を付けて街を覆う結界を解除させようと目論んでいたリュグナーと、外で大軍を置き、結界が解除された途端に押し寄せようと画策する七崩賢の一人・断頭台のアウラの作戦は、あと一歩のところで達成されようとしていた。
事実、フリーレンがこの街にいなかったとすれば、街は崩壊していただろう。それなりに強いと思われる領主も、リュグナーとリーニエの二人相手ではなすすべもなかった。結界の解除方法を知っていなければ、あっさりと殺されていたことだろう。
この第三巻はそんな街の攻防もクライマックスに突入し、ついに断頭台のアウラ VS 葬送のフリーレン、フェルン VS リュグナー、シュタルク VS リーニエ という戦いがそれぞれ展開されていく。
特に見物なのはなんと言っても、アウラ VS フリーレンだろう。
アウラが使う最強の武器は、「服従の天秤」と呼ばれる魔法だとされている。これはアウラと対象者の魔力の魂を天秤に乗せ、軽いと判定された方は相手に絶対服従というシンプルな魔法だ。
これまで五百年もの間、アウラの魔力の魂よりも重い魂を持っていた者は現れていない。だからこそアウラは七崩賢として君臨し続け、誰も勝つことができなかったのだ。それを打ち崩す策が、フリーレンにはあるのか――そこがこの戦いの大きな見所である。
一方、シュタルクもフェルンも苦戦を強いられていた。特にシュタルクの表情は険しい。なにせ相手であるリーニエという魔族は、これまで見た相手の技を完コピできるというのだ。彼女がコピーした相手は、シュタルクの師匠・アイゼン。シュタルクは自分の師と同じ技を使う相手と戦い勝たなければいけないのだ。
しかし、負ければ街は終わる。
この戦いでフリーレンが魔族を倒すために積み重ねてきた歴史と技術が、詳らかにされていく。読み応えのある物語であった。
前半はそんな街での攻防、後半は雪降る北の大地を進んでいく小話が続いていく。魔王軍と戦う人々を、最も殺したとされる豪雪が、フリーレン達を襲った。さすがの魔法も、雪相手には分が悪い。
どうしても進む足は遅くなり、眠れば死ぬ危険な状況が続いていく。かつての勇者パーティも、同じような道筋を辿っていた。たとえ八十年前であろうとも、まだその足跡は残っているようだった。
例えば。
かつて勇者パーティは、勇者の剣を守っているとされる剣の里を訪れた。その奥地の聖地に突き立てられた勇者にしか抜けないとされる勇者の剣を、ヒンメルは抜いたとされている。そこに再び訪れたフリーレンは、その聖地周辺に現れるという魔物の討伐を依頼される。依頼というよりは、代々それをヒンメル達が担うというお役目があるらしい。
そんなお役目がヒンメル達に与えられた理由とは何なのか?
そんなエピソードのように、勇者一行が辿った歴史を詳らかにしていくような物語が、本作の面白さを担っている。ただでさえフリーレンにとっては短い十年という旅路の中で、この北の大地を抜けるのに費やした歳月は、フリーレンにとってはもっと短いかもしれない。
それでもフリーレンに与えた影響は大きい。
第三巻の最後に訪れた街で、フリーレンはザインという名前の僧侶と出会う。彼はとても優秀な僧侶で、不治と診断された毒を一瞬で治療してしまった。フリーレンははっきりと「天性の才」と評した彼の技術は、田舎でくすぶっていていいものなのか。
昔、彼は冒険者に憧れていたらしい。しかし今となってはギャンブルと酒が好きな物臭僧侶で、冒険に出るという気概はすっかり失われていた。そんな彼に対し、同族嫌悪を抱いていると言いながら、最後には仲間に誘おうと動き出す。
十年前の彼女なら、絶対にそんなことはしなかった。ヒンメル達との冒険、フェルンとシュタルクとの冒険が、彼女を変えたことは言うまでもない。