※ネタバレをしないように書いています。
裏側にようこそ
情報
作者:宮澤伊織
イラスト:shirakaba
試し読み:裏世界ピクニック 5 八尺様リバイバル
ざっくりあらすじ
ネット上で怪異として語られるような存在が出現する裏世界。そこに入って探検する仁科鳥子と紙越空魚、二人の物語。
「ボンティアナック・ホテル」「斜め鏡に過去を視る」「マヨイガにふたりきり」「八尺様リバイバル」
感想などなど
「ボンティアナック・ホテル」
ラブホ女子会というものを御存知だろうか? その名の通り、ラブホでする女子会である。第四巻「裏世界夜行」にて鳥子とラブホ女子会をする約束をしていた空魚は、二人きりで行く決心がつかずに、小桜、茜理、夏妃も引き連れてのラブホ女子会の開幕である。
仲の良い者同士集まって、わいわいと酒を飲みつつ、飯を食いつつ過ごす時間は微笑ましい。今回ばかりは裏世界が入り込む隙はないな! と思うがそれは甘かった。ラブホにまで裏世界は這い寄ってくる。
今回の怪異は「ボンティアナック」。シンガポール人が徴兵された訓練キャンプで女性のお化けと遭遇したという珍しい海外の人による話が元になっている。ということで検索して読みに行った訳だが……ふむ、これがこうなるのか……いや、まぁ、言いたいことは分かるけれども。
怖さはないが、シュールで記憶に残るエピソードであった。
「斜め鏡に過去を視る」
ラブホ女子会から二週間もの間、連絡をとることができなくなっていた鳥子を心配してわざわざ大学までやって来た空魚。そんな彼女に対する鳥子の反応は、以外にも淡泊であった。
そのことを「鳥子が怒っている」と捉えた空魚は、何かと機嫌を取ろうと言葉をかけ続ける。しかし、鳥子の胸中は怒りではなく、もっと別の感情であった。
そのすれ違いをチューニングしてくれたのは、裏世界であった。
今回の話は様々な怪異を組み合わせているらしい。しかしどの怪異でも共通して言えるのは、鏡が登場しているということだろうか。鳥子の手によって押し出されたことで、街中で突然に裏世界へと押し込まれてしまった空魚。何とかして元の世界に戻るため、電話を繋ぎつつ鏡から鏡へと移動しながら、二人のこれまでを振り返っていく。
そして改めて思う。鳥子は空魚のことが大大大大大好きなのだな……と。裏世界で出会った不器用な二人が、思いを通わせることができるのは裏世界だけなのかもしれない。
「マヨイガにふたりきり」
タイトルにもなっている通り、今回遭遇することになる怪異はマヨイガである。これは知っている方も比較的多いのではないだろうか? 東北から関東にかけて語られてきた民間伝承で、山奥にあるという不思議な家に訪れた者が、家の物品を持ち帰ると幸福になるという内容だ。
日本の話ということもあり、大抵の場合は古い日本家屋だが、ネット上で語られる場合は西洋風の洋館だったりというアレンジが加えられたり、幸福になるという内容が不幸になっていたりとバリエーションは多い。
……では今回の場合はどうなのだろう?
外観はどうやら洋館だ。屋内は靴を脱いで入る形式なので日本ではあるのか。ではここにある物を持ち帰ると? 裏世界というスパイスによりアレンジにアレンジを重ねられたことで、一味違うマヨイガの話が構成されている。
恐いとは違う、よくよく考えると恐い話なのではないだろうか。
「八尺様リバイバル」
八尺様は一巻以来、久し振りの登場である。
そして覚えているだろうか。失踪したという妻を探す男が、妻と見間違えて八尺様に取り込まれた様を。今回は、そんな男の妻を名乗る女性が現れ、失踪したという夫を探して欲しいという依頼を持ち込んでくる。
つまり、失踪した妻を探していた男と、失踪した夫を探していた女が互いに夫婦だった……? 意味が分からない。この二つが両立できるとは思えない。男は妻が勝手に失踪したと思っていたのか? はたまたこの妻がおかしいのか。
とりあえず八尺様と遭遇した場所へと向かってみると、再び八尺様が現れる。正しくリバイバル。前回は八尺様を倒したが、今回は八尺様の中へと入っていくことに。そこには想像を超える世界と展開が待っている。
これまでのことでも分かっているつもりだったが、やはりこの世界はおかしい。そう実感させられるエピソードであった。