※ネタバレをしないように書いています。
賢者の弟子=賢者
情報
作者:りゅうせんひろつぐ
イラスト:藤ちょこ
試し読み:賢者の弟子を名乗る賢者 9
ざっくりあらすじ
キメラクローゼンとの戦いが終わり、世界に平穏が訪れた……しかし、残党狩りに混乱する国をまとめ上げる仕事がまだ残っている。キメラクローゼンを率いていた少女は、鬼を封印するために人柱にされた天使だったことが判明し、さらなる黒幕の存在する可能性が浮上する。ミラ達一行の戦いはまだまだ続く……。
感想などなど
そろそろ始まる戦争に備えて、九賢者を探している旅……を読んでいたはずが、世界を乗っ取ろうとしているキメラクローゼンとの戦闘に巻き込まれていた。ソウルハウルの名前や痕跡が、遠い記憶の彼方に追いやられてしまいそうだ。どうか思い出してあげよう(アニメどうするんやこれ……)。
この第九巻では『キメラクローゼンの後処理』を進めていくことになる。『ソウルハウルの話』も少し出てくるが、本当に少しなので第十巻の感想を書く自分に、筆は譲ろうと思う。
何事においても後処理は大変だ。キメラクローゼンが残した傷跡はあまりに大きい。殺され命を散らした精霊は数知れず。戦いの最後に空に消えていった魂が、せめてもの彼らへの救いになることを願うしかない。
しかし、いつまでも立ち止まって涙を流している訳にはいかない。キメラクローゼンの幹部が牛耳っていた国の政治を回す必要がある。ぽっかり穴の空いた政治や商売の中心部に、五十鈴連盟や ”まだ罪の軽い” キメラクローゼンの人間を嵌め込むことで、少しずつだが社会の歯車が回り始めた。
そして今回の戦いにおいて、偉大なる武勲を挙げた面々には盛大な賛辞と褒美が与えられた。ミラ、カグラ、セロの三人衆による本拠地襲撃しか、我々読者は活躍を知らないが、別の場所では騎士達がその力を振るっていたらしい。
そういった表面上の――つまりは何も知らない民衆に伝えられる情報を見る限り、事態は完全に収束したかに見えた。しかし、実際はかなり根深い闇があるようだ。ミラを始めとする九賢者が動かないといけないような、ややこしい状況に。
「精霊の力を集めることで、精霊から人間を救う」というようなことをキメラクローゼンの輩は言っていたが、その実体であるキメラクローゼンのトップは精霊と敵対する鬼だった。鬼というのは遙か昔に精霊に滅ぼされたはずの存在であり、その恨み辛みが何の因果か復活したということまでが、第八巻における戦闘で分かっている情報である。
そんなキメラクローゼンを指揮していた少女を、蝕んでいた鬼の呪い(黒い霧みたいな奴)を払い、残された少女を介抱し情報を聞き出すと、なんと彼女は天使というではないか。
しかもただの天使ではない。時は数万年前、精霊に滅ぼされた鬼を封印するに辺り、人柱として『封鬼の棺』に一緒に分け身として入れられた天使、その人というのだから驚きだ。
つまり、この天使は数万歳? とまぁ、不謹慎な話はこれぐらいにして。
ここで一つの問題が生じる。『封鬼の棺』の封印を解いた何者かがいる、ということである。天使と精霊王が言うには、『封鬼の棺』はそう簡単に封印を解けるものではなく、それこそ神に近しい力がなければいけないというのだ。
その何者かは一体誰なのか? 神に近しい力とは一体……?
というように数巻をまたいで追っかけて、戦いも長引きそうな敵の情報が出てきたが安心して欲しい。犯人の情報を掴んで、確保までこの第九巻に収まっている。恐ろしいまでのハイテンポで情報収集から突撃まで突っ走り、戦闘は九賢者が四人(ソロモン王、ヴァレンティン、カグヤ、ミラ)が出てくるのだから負ける画が浮かばない。
少しばかり敵に同情する。その圧倒的な戦力差を、是非とも見て欲しい。スカッとする第九巻であった。