※ネタバレをしないように書いています。
賭ケグルイ前史
情報
原作:河本ほむら
作画:斎木桂
試し読み:賭ケグルイ双 1巻
ざっくりあらすじ
庶民の出の少女・早乙女芽亜里は、名門・私立百花王学園に特待生として転入した。夢のお嬢様生活が始まるかと思っていたが、その学園はギャンブルで勝たなければ家畜に落とされることを知らなかった。
感想などなど
まず最初に説明しておきたい。本作は『賭ケグルイ』の主人公・蛇喰夢子の友達である早乙女芽亜里のスピンオフ物である。時間軸としては、蛇腹夢子が転校してくるより前、早乙女芽亜里が転入してきたタイミングから物語は始まっていく。
その頃から学園の生徒会長は桃喰輝羅莉で、ギャンブルで負けて毎月の上納金が支払えなければ家畜となり、人として扱われない。
「呼べば来る。物を投げれば取ってくる。番をさせれば寝ずに付き添い。そして死ねと言われれば死ぬ」
早乙女芽亜里は入学して早々、学園におけるギャンブルの洗礼を受けることになる。転入先のクラスにて、小学生の頃の同級生・花手毬つづらと出会ったのだが、彼女が家畜になっていたのだ。ペットボトルの水をぶっかけられても文句一つ言えず、帰らされるつづら。
ギャンブルの戦い方など何も知らない早乙女芽亜里は、カモとしてギャンブル勝負を仕掛けられる。庶民からお嬢様に憧れただけの少女が、最初にすることになるゲームは「時短大富豪」。
JOKER、2、1の順に強い手札を交互に出し合って、早く手札がなくなった方が勝ちという大富豪を、初手手札5枚で行うというゲームだ。2回目以降は富豪の最弱カードと、貧民の最強カードを交換する。ただし貧民は常に先手、勝った場合は倍返し。ローカルルールとして、最弱の3は、最強のJOKERに勝つことができるというものが採用されている。
レートは最低1万円からスタートしている。お嬢様学校の生徒達にとっては、この程度の出費は痛くないのだろうが、庶民の娘・早乙女芽亜里にとっては手痛い出費である。しかもその出費は膨れ上がり、最終的な借金は20万まで膨れ上がった。
しかし、その絶望的な状況に落ちようとも諦めず、花手毬つづらから50万を受け取り、再度「時短大富豪」に挑む早乙女。理論上、完全な運ゲーで負け続けることはあり得ないはずなのに、負け続けたことから分かることは「相手がイカサマをしている」ということ。
そのイカサマを予想し、利用し、勝てる可能性を限界まで上げて賭ける。これが早乙女のギャンブルでの戦い方である。勝てる確率が少しでも高ければ、それに賭ける……あくまで理詰めで勝利に挑むという姿勢が、蛇腹夢子とは大きく異なる。
決してギャンブル狂ではない。理性的な勝負師という印象である。
「時短大富豪」を経て、早乙女芽亜里の目標は決まった。
「私たちは上に立つ 二度とコケにされないために それがギャンブルで決まるというならギャンブルで勝つ」「学園の金持ち共全員見返してやる」「私達は勝者になるの」
これから先、勝者という立場に強く拘り立ち回っていく早乙女芽亜里。まず手始めに手っ取り早く儲けることが出来る賭場の胴元になることにし、この学園で最も人気のない賭場である第二図書準備室に訪れた。その賭場を管理している文芸部と話し合いなり、ギャンブルをふっかけるなりして賭場の胴元になる権利を得ようという訳だ。
ただそう簡単に話は進まず、結果としては想定通りであるが、文芸部部長・戸隠雪見とゲーム「スリーヒットダイス」に挑む。
こちらも「時短大富豪」同様にシンプルなルールだ。ゲーム開始時、プレイヤーは連続する3つの出目を予想する。予想の仕方としては、1から3までがDOWN、4から6までがUPとして扱われ、1が3回連続続くのが早いと考えたならば「D(=DOWN)DD」という風に行う。
ルールを聞くだけならば運ゲー。しかし、このゲームには最適解というものが存在する。それについては確率を勉強していれば分かるので割愛するとして、このゲームもまたイカサマが仕込まれていることが問題である。
それに気づき、利用して相手を嵌める早乙女芽亜里の手腕は天才と言わざるを得ない。なにせこのゲームが人生で二度目のギャンブルである。しかも大金を賭けていて、負ければ家畜という状況で行えるのだから正しく勝者と呼ぶべき逸材だ。
そんな彼女の素質を見抜き、多くのギャンブラーが勝負を挑んだりしてくる。これまでの相手は前座、雑魚、お遊び。
問題はここからである。
金を稼ぐために賭場を開いた早乙女芽亜里と花手毬つづら、いつの間にか仲間に加わっていた戸隠雪見と共にゲームを開催する運びとなった。本編では蛇腹夢子からゲームを提案することはほぼほぼなかったが、本作では金を稼ぐためにゲームを開催する展開も多い。今回はその第一弾といったところだ。
早乙女達が考えたゲームは「魔法のダイスゲーム」。
これもまたシンプルだが、一瞬で金が溶けていく恐ろしいゲームである。ルールとしては場に用意された3つのダイスから1つ選び転がす。ディーラー側はその後で別のダイスを選び転がす。出た目が大きい方が勝つという内容だ。
これまた運ゲー……ではない。実際はかなりの確率でディーラー側が勝つようにできている。このトリックがバレてしまわないように、ゲームは3回までといったような制限を自然な形で組み込み、回転率を上げつつ金を稼いでいく。
そんな彼女たちの前に現れたのが、生徒会執行役員・壬生臣葵。
この男、本編には出てきていない。本編から本作に入った人間は首をかしげることになるが、生徒会役員=ギャンブル狂という図式を知っている人間からしてみれば、警戒してしまうのは必然。そしてその嫌な予感は的中する。
ディーラーがかなりの確率で勝つゲームで、賭場を潰さんという動きをしてみせる。これから先、早乙女達にとっての脅威となることは火を見るよりも明らかである。また本編には出てきていないというのも、どこか不穏さを駆り立てる。
本編よりも好きという方がいるのも納得できる高水準なスピンオフであった。