※ネタバレをしないように書いています。
剣として生きていく
情報
作者:棚架ユウ
イラスト:るろを
試し読み:転生したら剣でした 6
ざっくりあらすじ
武闘大会に参加することにしたフラン。猛者が多数参加している中、順調に勝ち上がっていくフランであったが、獣王の側近や、Aランク冒険者のアマンダなど格の違う強敵たちに苦戦を強いられる。そこで彼女が出した奥の手とは……。
感想などなど
武闘大会とは――己の強さを示し、箔をつけるための舞台。
武闘大会とは――これまでの鍛錬の成果を出すことができる数少ない舞台。
色々とそこに求める意味は、それぞれ異なるだろう。勝ち上がった先にある名誉か、はたまた金を欲しているのか。闘いを貪欲に求める戦闘狂もいるかもしれない。では、我々の愛する主人公・フランは何を思い、この武闘大会に参加しているのか。
一つは強い者と戦いたいという欲求がある。疑いようもなく、フランという少女は戦闘狂だ。何度も師匠にたしなめられ、「ん」と答えて自制しているが、もしも師匠がいなかったら控室が死屍累々の惨状になっていたかもしれない。
ここに至るまで数々の戦闘経験を積み、剣の使い方のみならず、スキルの使い方等々かなりの練度に達していることが伺える。本戦ならまだしも、予選においてフランに敵うものはいなかった。
ただ威圧のスキル一つでバッタバタと倒れる辺り、ワン〇ースの覇王色の覇気が思い出される。実力差がありすぎると、相手の強さを理解できないというが、そういった弱者があまりに多すぎる。
その弱者代表として、『青の誇り』とかいう自称超有名傭兵団の騎士にして、黒猫族の不倶戴天の敵、青猫族の……名無しを挙げたい。ここまで読者(と師匠)をムカつかせる雑魚はそうそういないからだ。
予選では複数人が舞台上に上がっての総当たり戦となっている。中にはフランのことを知らない冒険者もおり、黒猫族・子供・可愛いと三拍子そろったフランを狙う者が多いというのは想像できる流れだ。
「死ねぇ!」と斬りかかって、実際に相手を斬り伏せることができたキャラクターはいるのだろうか。少なくとも、本作品では返り討ちに合うことを記載しておく。
はっきり言って予選はどうでもいい。名前ありのキャラクターも登場するが、彼らはフランと苦楽を共にした仲間であったり、親しい友人だったりする。フランと当たることに落ち込みつつ、本戦にコマを進めたフランを称えるだけの余裕があった。
問題は本戦である。
この第六巻は、この本戦での激闘が本筋だ。
これまで戦闘描写があまりなかったA級冒険者たちや獣王といった強者たちの戦い方というものが、しっかり描かれていく。それぞれが得意とする闘い方や隠し玉、そいつにしか使えないようなオリジナリティある戦闘手法など、フラン以外の戦闘も面白くなっている。
ただやはり特筆したいのはフランの戦闘だ。
何度も言うように予選はどうでもいいので、本戦での強敵たちとの戦闘について語りたいのだが、ここでは一人だけ……相手は獣王の側近・ゴドダルファとの闘いについて語りたい。
そもそも獣王とは、第五巻ですれ違っただけで恐怖で動けなくなった獣人族最強の男である。その側近というだけあって、その強さは別格。フランと戦うまで無傷で勝ち上がり、ランクA冒険者・アマンダに匹敵するとまで言われている。そんな彼が使う戦斧を食らえば、フランといえど死ぬ。
そのための対策として、フランは物理攻撃無効を主軸にして戦うことにした。長時間使うことは想定されていないスキルだが、トーナメントという舞台では惜しげもなく使い、短期決戦で叩き潰す!
……といいたいところだが、身に着けている装備を見るにゴドダルファも本気でこの戦いに挑んでいる。鑑定遮断に自動回復能力、魔術耐性を持つ神級鍛冶師の装備を身に着け、最初から覚醒を使って、こちらも短期決戦を望んでいるらしい。
互いに自身の切り札を出し合う白熱した試合。これは切り札がなくなった方が負ける勝負だった。そしてフランが出した最後の切り札が、この第六巻における最高の盛り上がりとなる。
本戦での戦いが本筋ではあるのだが、それ以外にも語りたいことはある。それは獣王が武闘大会に出資したり、いろいろと動き回っていたことの目的だ。時折挟まる獣王視点でのエピソードでは、どうにもフランを気にかけているように感じられた。
ただそのエピソードと現実でフランと顔を合わせた際の獣王の言動が伴っていない。「これは……ミスリードか?」と読者が首を傾げる頃になって語られる真実は、この物語において超重要な意味を持ってくる。
つくづく盛り上がりを作るのがうまい作品だと実感させられる第六巻であった。