工大生のメモ帳

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【映画】運命じゃない人 感想

※ネタバレをしないように書いています。

良い人

情報

監督:内田けんじ

脚本:内田けんじ

主演:中村靖日、霧島れいか、山中聡

ざっくりあらすじ

お人好しサラリーマン・宮田武は、彼女と結婚するに当たってマンションを購入した直後、その彼女が失踪してしまう。そんな彼の親友である私立探偵・神田は、彼女を忘れられない宮田を叱咤しつつ、彼の前で一人の女性をナンパしてみせる。

感想などなど

あなたにとって良い人とは、一体どういう人だろうか。良い人という言葉に含まれる意味は、実際そう単純ではない。あなたにとって良い人から見たあなたは、良い人ではないかもしれない。

良い人という評価は、双方向であって初めて成立すると思う。そうでなければ一方的な良い人、つまりは都合の良い人でしかない。これは傲慢であろう。相手を利用するだけ利用して何も返さない人は、最初は良いかもしれないが長期的に見たときに多くのモノを失っていく。

さて、本作におけるお人好しサラリーマン・宮田武は、とても良い人だ。映画を見ていけば分かるが、彼は他人を疑うということを知らない。彼を取り巻く環境は、全てを失ってもおかしくない首の皮一枚繋がったギリギリの環境だったことが、見れば見る程、考えれば考える程に分かっていく。

そのギリギリの状態は、私立探偵・神田という親友の存在、金が全ての女、振られて自暴自棄になった女、突如として彼らの物語に割り込んできたヤクザ……など多くの者達の行動が噛み合っていくことで成立している。

ミステリーのような謎に満ちた物語ではないにも関わらず、全ての伏線が回収されていく爽快感があった。事件の渦中にいるはずの宮田武が何も知らない裏で繰り広げられていたドタバタ、その全てを知っている者は誰もいない。全ては奇跡的な歯車の噛み合いによって辿り着いた結末を見ることが、この映画の醍醐味だ。

 

本作は複数の人の視点を描く群像劇システムである。最初はお人好しサラリーマン・宮田武視点で一夜の出来事が描かれ、それは一人の男が失恋から立ち直るまでの物語が描かれている。

彼には婚約者がおり、結婚するに当たってマンションを購入した矢先、失踪されてしまった。一般論として、彼女は宮田武という男に飽きた……というストーリーが想像できる。あくまで一般論であるが、このストーリーよりも失踪した彼女のことを心配し続ける宮田武という男は、良い人として紹介したい。

そんな彼を元気づけるために、親友である神田は彼を夕食に連れ出し、失踪した彼女のことは諦めろと諭す。そして新しい恋でもすれば忘れられるだろうと、近場にいた幸薄そうな女性をナンパし、一緒に過ごすように背中を押しに押しまくり、二人は一夜を共に……過ごすかどうかは映画を見て確認して貰おう。

そんな濃密な一夜が、何と本作におけるプロローグである。

二人目、神田の視点でこの一夜の物語が描かれてみると、全てがひっくり返る。神田が宮田武を誘った理由、そしてまさかの宮田の婚約者が失踪した理由に至るまでの全てが繋がっていく。

プロローグにおける大人の恋愛模様からドタバタ逃走劇に繋がっていく展開を、一体誰に予想できただろうか。この急転直下の展開が最高に面白い。そんな神田のストーリーを堪能するも一夜の全容は理解できず、次に予想外の人物の視点へと移っていく。

本記事の最初にも書いたが、この映画の醍醐味は『全ては奇跡的な歯車の噛み合いによって辿り着いた結末を見ること』である。全ての視点が絡み合って繋がって辿り着いた結末は、最高にスカッとする。

本作に明確な正義はいないが、だからこそ成立する爽快感というものがある。気持ちの良い映画だった。