※ネタバレをしないように書いています。
不器用な二人の共同生活
情報
作者:ヤマシタトモコ
試し読み:違国日記 (2)
ざっくりあらすじ
卒業式のため久しぶりに中学校へ登校した朝。そんな彼女に対する周囲の反応は複雑だった。その理由は彼女の親友・えみりの母親が、朝の両親の不幸を連絡網で回していたのだ。
感想などなど
残されたモノは整理しないといけない。
残される予定のなかったモノ達を、必要と不必要で分ける。第二巻はそんな作業から始まっていく。堅苦しい言い方をしてしまったが、要は朝が住んでいた家の遺品整理という奴だ。
これは決して楽な作業ではない。肉体的にも精神的にも。
返却されるはずだった図書館の本。取り込まれるはずだった洗濯物。水が与えられずに枯れていく植木たち。そういったものが列挙され、捨てられていく過程をどこか詩的に感じてしまった。
どうにも不思議な感覚だ。決して文章が多いという訳ではなく、しっかりと漫画という形をとっていながら、小説を読んでいるのに近しい。その感覚の正体を考えていくと、少女小説家・高代槙生の語り口や視点が文学的であるということに気づく。
こういった形のキャラとしての個性の付け方もあるのだという学びを得つつ、不器用な優しさに笑みがこぼれる。
そんな大変な遺品整理の合間に、中学校の卒業式がやってきた。
義務教育を無事に履修したブログ主は、卒業式にも出席した。その当時は、一生忘れないくらい感動したような気がするが、どのような式だったか今となっては覚えていない。ただ感動したという漠然とした感情だけが残っている。
そんな卒業式にもしも出なかったら……そんなこと考えたこともなかったし、出なかったとしても何も変わらない今を過ごしているように思う。
朝は中学の卒業式に向かった。いつもとは違う電車を使っての通学を経て、懐かしい顔ぶれのいる学校に久しぶりに顔を出した。
しかし彼女は卒業式が始まるより前に学校を飛び出し、卒業式に出席しなかった。
理由は彼女の友人えみりが、母親に朝の両親のことを話した。すると母親がそのことを学校に報告。さらに連絡網を通じて、生徒達に周知されたのだ。卒業式が始まる前、教師に呼び出され、これから一緒に住むことになる大人の連絡先を教えるように言われ、「あなたが不用意な言葉で傷つくことがないように」という優しさ故に、全生徒に朝の両親のことを伝えたと諭される。
そんな教師達に向け、朝は言葉を荒げた。
『みんなもうあたしのことを あたし じゃなくて「親が死んだ子」ってしか思わない』『ふつうで卒業式に出たかったのに‼』
この作品はシーンに対して感じた違和を、ストレートにわかりやすい言葉にしてくれる登場人物たちが多い。特に朝はその傾向が顕著だ。ズバッと切れ味鋭い言葉で話していた母親の影響なのだろうか。『「親が死んだ子」ってしか思わない』なんて朝の状況を端的に示している。
結果として彼女は卒業式に出なかった。その帰り道は心が痛くなるようなものだった。まず間違って以前住んでいた家に帰ってしまう。帰り方が分からなくなる。どうすれば良いか分からなくなる。大人に助けを求めようにも、彼女にとっての大人は、一緒に住んでいる不器用な少女小説家だ。
彼女が語る生き方は、朝を否定も肯定もしない。ただ分からなくなって混乱していた思考を、丁寧に読み解いていくような物語になっている。
この第二巻で過去から未来へと歩めるだけの覚悟はできたように思う。それは朝だけのことではなく、姉が嫌いでしかたなかった高代槙生も同じだ。あなたのことは好きになれない、と断言した彼女は、遺品整理や学生時代からの友人や元彼との会話を通じて、朝との付き合い方に折り合いをつけていく。
朝はいよいよ高校生になる。過去を振り返っても、高校生になる未来はやってくるのだ。
今回も印象的な台詞が多い第二巻であった。