※ネタバレをしないように書いています。
限りなく透明に近いブルーだ。
情報
作者:村上龍
ざっくりあらすじ
米軍基地の街・福生のハウスは、ドラッグとセッ○スに満ちていた。退廃的で空虚な日常を生きる彼らから見える世界とは……。
感想などなど
下記は本作の冒頭一文である。
飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蠅よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。
実に淡々と、主人公であるリュウから見える世界を描写している。
この作品の魅力を一言で語るなら、ドラッグとセ○クスに満ちた退廃とした世界が、淡々とした文章で描かれることで身近に感じてしまうこと、理解できたように感じてしまうこと、だと思う。
自分はドラッグはしたことがないし、それならば当然、作中で描かれるドラッグしながらのセ○○スだってしたことがない。ゴキ○リが徘徊する部屋で眠り、手元にあった雑誌を丸めて潰したこともない。
自分にとって日常とはかけ離れた非日常だが、そこにいる彼らにとっては、そこは間違いなくかけがえのない日常だった。そのことが淡々とした文体を読み進めていくと、その日常をすんなりと受け入れるようになってしまう。
淡々とした文体というと、面白みのない文体というような印象を抱かれるかもしれない。それはそうかもしれないが、村上龍という作家の目から見たものを見たままに、感情の赴くがまま描いたような文章は、すんなりと自分の想像と重なってしまう。
オスカーの部屋では中央に拳程もあるハシシが香炉で焚かれ、立ちこめる煙は呼吸のたびに否応なく胸に入ってくる。三十秒もたたないうちに完全に酩酊する。からだ中の毛穴から内蔵がドロドロと這い出し、他人の汗やら吐く息が入り込んでくるような錯覚に陥る。
上記は薬やら酒やらを交えての乱○パーティの始まりである。これは自分が今後も体験することがないだろう体験も、そのような憑依してしまうように錯覚して体験できてしまう。想像させられてしまう。
それが文章の凄いところのように感じた。
この作品のストーリーは……何回も読んだが記憶に残ってない。それでも印象に残っているシーンはたくさんあるし、その中でも特にラストシーンは美しさと似たような印象を受ける。
そこに至るまでの鬱屈とした退廃的な日常の中に散らばった美しさの正体が分かるといえば聞こえは良いだろうか。淡々とした文章であるということは同じだが、後半になるにつれて文章全体の勢いが増していくように思う。何度も一気に読み終えてしまう。
この文章を書くことで、そして僕らが読むことで、何かが救われているような気がする。そんなとても不思議な魅力に満ちた村上龍のデビュー作であり、唯一無二の傑作であった。