工大生のメモ帳

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陰の実力者になりたくて!01 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

妄想を実現させるだけの力を

情報

作者:東西

イラスト:逢沢大介

試し読み:陰の実力者になりたくて! 01

ざっくりあらすじ

厨二病の妄想を実現させるため鍛錬を積んでいた少年は、転生先の異世界でもその鍛錬を継続させ、「陰の実力者」設定を楽しむために陰の組織「シャドウガーデン」を作り出した。あくまで妄想の産物である「闇の教団」を倒すべく、日夜鍛錬を積んでいたが、実はその「闇の教団」は実在していて……。

感想などなど

この世界で自分だけが持っている闇の力だとか、一国の軍隊を相手にたった一人で戦える世界最強だとかに憧れる。人はそれを厨二病と呼ぶ。憧れるのは勝手だが、それを表面上に露わにし、そういうファッションだとかをしている者は、それはそれは冷めた目で見られる。

そうした過去は黒歴史となって、大人になった頃に襲ってくる。

その当時は本気だったのかもしれない。大人に構って欲しかったとか、それがかっこいいと思っていたとか、そういった理由があるにせよ、いずれ大きくなればそういった妄想からは離れて社会に溶け込んでいく。

通勤電車で揺れている社会人も、子供の頃にはそういったことをしていたのかもしれない。それが金を稼ぐために会社の歯車として働いているのだから、厨二病なんて一過性の流行のようなもの――それほど大げさに騒ぐようなものでもない気がする。

しかし、そんな厨二病的な設定を本気で実現させようとする者がいた。本作の主人公である。

彼は核爆弾にだって負けない人間を目指し、日夜鍛錬に励んでいた。元軍人程度ならぶちのめせるくらいには強くなったのだから、その鍛錬は本物だったのだろう。陰で活躍するヒーローとして、夜になると街に繰り出して悪者をぶちのめす日々を過ごし、しかしその自分の成果をひけらかすことはしない。

厨二病というよりは、立派なヒーローとでも呼ぶべき活躍だが、彼は表に出てこない。あくまで「陰の実力者」であろうとする姿勢は、立派な厨二病と呼ぶべき症状である。

そんな彼が事故死した。彼は強くなったが、核爆弾にすら負けないという当初の目標は果たせずじまい。人間が核融合のエネルギーに勝とうというのが片腹痛いが、それでも彼にとってそれが心残りであって、「もし魔法があったら」というifを妄想する程度には追い込まれていたことをここに記載しておく。

そんな彼が魔法のある異世界に行って、することは変わらない。「陰の実力者」として生きていく。そのために核融合に負けないレベルにまで強くなることが求められた。

まぁ、この世界には核爆弾なんてないんですけどね。

 

転生してシドという名前を得てから、剣や魔法の鍛錬を積んだ。魔法に関しては異世界に来てから使い方等々を学ぶことになるが、剣については現世でもかなりの技術を持ち合わせていた。基本的に魔法の可能性に魅力を感じ、彼は魔法の扱いに関してかなりの練度に達していた。

ただし、その力を周囲にひけらかすようなことはしない。

むしろ弱者として見られるように行動していた。彼には姉がいるのだが、優秀な姉よりも遙かに劣るか弱い弟としてのスタンスをとり続けた。これも全て「陰の実力者」のためである。

そんな「陰の実力者」修行の一環で盗賊集団を潰した際、大量の魔力を内包している肉塊を発見した。その肉塊に自らの魔力を流し込み、魔力の扱いの鍛錬を積んでいたら、いつの間にか肉塊が金髪エルフになっていた。良く分からないが、ただの肉塊だと思っていたものは金髪エルフだったらしい。

まぁ、深いことは気にせずに、シドはその金髪エルフにアルファと名付け、彼女を初代メンバーに据えて『シャドーガーデン』という組織を、“遊び” で作り出した。

組織の目的は『魔人ディアボロスの復活を阻止すること』。

だがこれはシドの妄想である。魔人ディアボロスというのは、この世界における昔話上の存在である。存在は確認されておらず、あくまで空想上の産物として語られるそいつが、復活するという妄想に則り、『シャドーガーデン』は活動を開始する。

魔人ディアボロスは、かつて人間、エルフ、獣人から立ち上がった3人の勇者によって討伐された……とおとぎ話では語られている。しかしその実(――彼の妄想の中では)、魔人ディアボロスは勇者達3人に、〈ディアボロスの呪い〉というものをかけた。その呪いは〈悪魔憑き〉と名前を変え現代まで残り続けた。

つまり〈悪魔憑き〉を発症した者は、勇者の末裔ということなのだが、その話は伝えられていない。となると何者かが、この歴史をねじ曲げて伝えたということに他ならない。その何者か達は表舞台には顔を出さず、裏で歴史すらねじ曲げるほどの力を持っている。

その者達の名は――『ディアボロス教団』。

『シャドーガーデン』はこの『ディアボロス教団』を倒し、魔人の復活を阻止するために戦う!

……と長々と語ってきたが、これは全てシドの妄想である。

しかし、全て真実でもある。

 

ややこしいかもしれないが、これ以上の説明はできない。シドが語った妄想は、一つの例外もなく全てが真実であり、しかし彼はこれを妄想の遊びとして語っている。

『ディアボロス教団』は本当に実在し、彼らの目的である魔人復活阻止すべく活動する部下達であるが、それを「遊びに付き合ってくれる良い子」だと想っているシドとのすれ違いが、悲しいギャグを生み出している。

それにより変な事件に巻き込まれつつ、『陰の実力者』として暗躍して事件を解決してしまう。それが結果として『シャドーガーデン』の目的達成に寄与し、部下達からは尊敬され、全てを知る完璧超人として崇め奉られていく。

それもそうだろう。一番最初は半信半疑だったのかもしれないが、調べれば調べるほどに『ディアボロス教団』の存在を裏付ける証拠が出てきて、〈ディアボロスの呪い〉も本当にあるものだと分かっていくのだから。

本当に彼が言っていることは全てが真実なのだから。

当の本人は妄想だと思っているし、実際に彼の妄想であるのだから。これぞ『陰の実力者』のなせる技なのかもしれない。

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