工大生のメモ帳

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青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない 感想

【前:第六巻】【第一巻】【次:第八巻
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※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

全員を救いたい。

情報

作者:鴨志田一

イラスト:溝口ケージ

劇場版:【劇場版】「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」【感想】 - 工大生のメモ帳

ざっくりあらすじ

麻衣先輩が、自分を庇って車に轢かれた。

自分の選択は間違っていたのか? 麻衣先輩を救うため、咲太は過去へと向かう覚悟を決めた。

感想などなど

麻衣先輩……咲太を救うために、自分の命を犠牲にした前巻の結末。咲太も似たようなことをしようとしていたのですから、似た者カップルとでも言うべきでしょうか。

麻衣の母やのどかの視線や言葉が痛くて、読み進めるのが心苦しくて、いつものブタ野郎的言動が弱々しくなっています。

さらに、麻衣先輩が死んだからと言って、翔子ちゃんに心臓移植ができる訳ではないので、徹底的に誰も救われない物語です。作品全体に重苦しい雰囲気が漂います。

そんな咲太に対して、救いの手を差し伸べるのは、花楓が虐められ思春期症候群を発症した砂浜の時と同じく、翔子先輩でした。

「『今』を認識しようとする常識的な思考を咲太君から切り離せばいいんです」

ほぉーん、よく理屈その他よく分かりませんが(詳しくは双葉里央が説明してくれます)。簡単に言うと、過去に言ってこの今を変えて欲しいということだそうです。

しかし、ここで問題なのが「過去に行って何をするのか」ということです。

解決すべき問題は、「咲太が死なないようにすること」と「麻衣先輩が死なないようにすること」の二つです。ですが、過去の咲太は翔子さんのために死のうとしており、麻衣先輩はそんな咲太を守ろうとしているという、ややこしい状況。

「過去に戻った咲太が、その時間の咲太に会って何かしら言えばいいやん」と思われるかも知れませんが、双葉里央曰く、「『今』の咲太と『過去』の咲太が会うと、何が起こるか分からない」というらしい。タイムスリップではありがちな、タイムパラドックスが起こるのでしょう。

咲太は何をすべきか良く分かっていないまま、過去へと向かって行きます。

 

今回の物語が、今までの物語の集大成であり、一つの区切りになるんだろうな、と思います。これまで咲太は数々の青春症候群と対峙し、多くの仲間ができました。その仲間達――麻衣先輩、のどか、双葉里央、花楓、朋絵……が全員協力してくれて、誰一人としては欠けてはいけない戦いが幕開けです。

みんながみんな、咲太のことを心配し、どうにかできないかを考えてくれる姿は、読んでいて涙腺が緩みそうになります。これまでの戦いは無駄やなかったんやなって。過去作を読み返したくなるような小ネタも盛りだくさんです。

 

さて、今回における解決とは何なのでしょうか。

咲太も麻衣先輩も死なないこと……ですが、元々咲太は翔子を救いたいがために、死ぬことを選んだのです。果たして、過去に戻り麻衣先輩が死なないようにしたところで、咲太は納得するのでしょうか。

しかし、翔子の病気は過去に戻った程度で治る問題ではないのです。

翔子がとても良い娘なのも、読者の精神を削っていきます。夢を綴った学校の宿題も、もの悲しい雰囲気をかき立て、彼女の言葉の一つ一つが重い。「彼女を救う策はないのか?」と考えてしまいます。

この物語の結末は……どうか読んで確認して下さい。

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