※ネタバレをしないように書いています。
犯人はイタカ?
情報
作者:原田宇陀児
イラスト:ringo
ざっくりあらすじ
誰もいない貸し切り状態の朝早いイーグルランドマニトウにて、サマンサ・イーグル、グラニット、ジェイド嬢の三人はやって来た。そこで三人一緒にローラーコースターに乗るが、サマンサ・イーグル一人が突然に消えてしまう。誘拐事件として警察は捜査を開始し、グラニットを家に送り届けるために私立探偵兼タクシードライバーのボギィが車を出すが、謎の襲撃を受けてしまう。
感想などなど
遊園地は子供に夢を与える場所であるべきだと思う。友人やTVから得た断片的な情報から夢を膨らませて、休日にでも行きたいと親に子供がせがむようなそんな楽しさが詰め込まれた場所であったように感じる。
しかし、グラニットが遊びに来たイーグルランドマニトウは別の意味で有名になって大盛況になることとなる。なんとローラーコースターに乗ったはずの一人の少女が、忽然と姿を消してしまうという事件が発生したのだ。
しかもその姿を消した少女サマンサ・イーグルというのが、世界規模でテーマパークやキャラクタ商品の販路を展開するイーグルグループの総帥サミュエル・イーグル氏の娘というのだから噂が噂を呼んで膨らんでいくこととなる。
さらにさらに、テーマパークのある土地が、イタカの潜む地と語り継がれている場所であるというのだ。
イタカというのは、クトゥルフ神話における旧支配者のことである。偶然にもイタカに遭遇してしまった者は、天高く舞いあげられ生贄として遠方の地を数か月に渡って引き回されると言われている。
クトゥルフ神話というのは神話と冠しているものの、人が絶対叶わない絶対的存在を描いた虚構である。現実には存在しない。しかし、このイタカというものはどうにも熱狂的に信じている者が一定数いるらしく、今回の事件もこのイタカによるものではないかと囁かれることとなる。
また、同じローラーコースターに乗り合わせたグラニットが、人とは思えぬ悲鳴と、頭上を過ぎ去る影のようなものを見たというのだから、警察内部にも困惑の渦が巻き起こる。イタカというのは信用できないが、だからといってローラーコースターが走っている合間に人が一人消えた事実は覆らないのだから。
こうしていたかという都市伝説的な噂が、事件の奇妙さを際立たせることとなり、ローラーコースターに乗りたがる者が増える結果となってしまった。
そんな事件を、捜査する刑事視点ではなく(ないこともないが)、グラニットという少女を家に送り届ける任務を仰せつかった私立探偵兼タクシードライバーのボギィ視点で描かれていくのが、本作における一番の特徴といえよう。
しかしグラニットという少女は身元を簡単に明かせる身分ではないらしく、送り届ける先も家に直接ではなく、彼女の通う学校か、はたまた別の警察署かということであった。どうにもキナ臭いが、少女の意見に従うしかない。
そうして目的地に紆余曲折あって警察署としたボギィとグラニットであったが、途中で襲撃を受けてしまう。ボギィの運転技術と機転により難は逃れていくのだが、安全を保障できるような場所を探す羽目になる。
ここで考えるべきは、何故グラニットという少女が襲撃を受けなければならないのか? だろう。
彼女は自身の身分を最後の最後まで明かさない。しかし、イーグルグループの総帥サミュエル・イーグル氏の娘とともに遊園地に遊びに来るような仲だ。そこらにいる一般人という訳ではないだろう。年齢の割には大人びた精神は、彼女の育ちの良さを感じさせる。送り届けて欲しいというにも関わらず、自身の住む家の場所を徹底して明かそうとしないのも彼女の奇妙さを加速させる。
彼女の身元を起因とした襲撃なのだろうか?
そんな事件の風向きも、姿を消したはずのサマンサ・イーグルの死体が発見されてから一気に変わっていく。死体の状況はそれはそれは酷いものであった。服は脱がされ、頭は人の力とは思えない強大な力で潰されていた。
それは正しく人間業とは思えない。そう、イタカのような神に近しい存在が起こしたとしか思えなかった。
この作品の魅力はボギィとグラニットの掛け合いにある。最初は口喧嘩の絶えない二人も、逃走劇を繰り広げる過程で仲良くなり、徐々に互いのことを話し始める。するとその会話を糸口として事件について分かっていくのだから、少しも読み飛ばすことのできない展開が続いていく。
なりふり構わない犯人の策略も、かなりぶっ飛んだ展開というものを生み出してくれる。もはや国家を動かしかねないほどに膨らんでいく事件と、そこまで膨らんでしまった事件を収束させるボギィという男の手腕には感服の一言である。
読み応え満点の作品であった。