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【漫画】鬼滅の刃23 感想

【前:第二十二巻】【第一巻】【次:な  し】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

絶望を断つ刃となれ

情報

作者:吾峠呼世晴

試し読み:鬼滅の刃 23

ざっくりあらすじ

無惨との戦いも最終局面に突入。無惨と鬼殺隊の長い長い戦いの歴史に、ついに終止符が打たれる。

感想などなど

無惨との最終決戦、通称『無限城編』が始まったのは、鬼殺隊のトップ・お屋形様が家族もろとも自爆したことから始まった。無惨自らが出張って来ることを予期した上で、家族が死ぬことも覚悟の上で、最終決戦を告げる爆発が轟かせたのだ。

無限城に雑魚として放たれた鬼達は、全て下弦の鬼レベルの血を与えられており、その戦場のレベルの高さが伺える。そいつらは柱稽古で鍛えられた剣士達が、きっと片付けてくれるだろう。

上弦の参から壱も、この戦況には混じっている。これまでの上弦の鬼は、首を斬るだけでは死なないというような初見殺しな能力を持っていた(無論、普通に戦っても強い)。それに比べて上弦の参以降は、単純な戦闘能力が柱複数人相手だとしても、難なくこなすような力が純粋な脅威となっている。

上弦の参・猗窩座は水柱と炭治郎の二人で戦った。炭治郎が、彼の過去を呼び起こさせることができなければ負けていたと思われる。炭治郎のような言動を沿わないと勝てないと考えると、とんでもない無理ゲーだった。

上弦の弐・童磨は、毒によるメタをしなければ勝てなかっただろう。自分と同じ強さの分身を最初から出されていたら、カナヲも伊之助もなすすべなく負けていただろう。最初は本気を出さない性格、女性は必ず食べるというポリシーが、彼の死因となった。

上弦の壱・黒死牟は、あの縁壱の兄である。縁壱というのは、かつて無惨を殺しかけた史上最強の剣士であり、全ての呼吸の始祖である。そんな彼しか使うことのできなかった日の呼吸は、炭治郎にまで伝わり、巡り巡って無惨の首筋にまで迫る剣となった。

そんな歴史と人々の想いの連なりが、無惨を追い詰めた。その結末がこの第二十三巻では描かれていく。

 

思い返してみると、誰一人として欠けてはいけない戦いだったと思う。岩柱という柱最強の戦力は言わずもがな。死んでいった霞柱に蟲柱も、それぞれ上弦を倒すきっかけを作り出した。風柱も水柱も、途中退場した恋柱も戦力としては十分に活躍してくれた。それは今回の柱や炭治郎達一行に限った話ではない。これまで鬼殺隊が歩んでいた軌跡と、それに関わってきた全ての人が、ここまで無惨を追い詰めることになった。

対する無惨は、そんな人の想いを馬鹿にしている鬼だった。鬼達が結託することを恐れ、鬼達が協力することのないように仕組んでいたり、無惨という名前を呼んだら死ぬように仕込んでいたり、縁壱を恐れて彼が死ぬまで逃げ続けるといった小物さを列挙していけばキリがない。

第二十二巻において、追い詰められた彼がとった最後の手段は走っての逃走である。剣士としてのプライドなぞ、彼にとっては馬鹿にすべき対象でしかないことは想像に難くない。最後に彼を追い詰めたのは、『老化する薬』であったが、無惨をメタった最適解なのではないだろうか。

そんな彼を殺す手段は、老化したとはいえ陽の光の下に晒すことのみ。太陽が昇り、陽の光が地面を照らす光景がこれほどまでに達成感を与えてくれる漫画があっただろうか……と思ったら、ジョジョ二部を思い出していた。

ジョジョの第二部では、鉄仮面の力で作り出された吸血鬼を食べる生物が、人類の敵として立ち塞がる。そいつの弱点もまた、鬼と同じく日光であった。しかし最後には日光を克服し、究極生命体として立ち塞がる。太陽を背にして立ち塞がる究極生命体のシーンは、読者に絶望感を与えた。

そんなジョジョでは絶望だった太陽、鬼滅の刃では希望となった。数多の犠牲と共に、太陽の前に引きずり出された無惨は、ゆっくりと死んでいく。こいつが太陽を克服することは最後までなかった。死屍累々の惨状、生き残りの方が少ない戦いであったが、たしかに人が勝ったのだ……。

 

無惨は最後まで太陽を克服することはできなかった。

太陽克服が無惨の悲願であり、そのために太陽を克服した禰津子が現れたことで、鬼殺隊と鬼との戦いが激化している。青い彼岸花を鬼達に探させたのも、太陽の下を歩く程度のことができないことに対する苛立ちを解消するためだったと思われる。

そんな太陽克服の鍵を握る禰津子は、第二十二巻で人に戻っていた。炭治郎を兄として認識し、彼の名前を呼んでいる。鬼と人に戻す薬は、しっかりと完成していたのだ。ただ無惨が鬼のままであることを鑑みるに、その人の意思が重要であるような気がする。もしくは遺伝子による影響だろうか。

となると禰津子と兄妹である炭治郎が鬼になったら、どうなるのだろうか?

無惨は死にかけた最後に、自身の悲願を炭治郎に託した。太陽を克服し、首を斬られようが心臓を潰されようが死なない、究極の生命になるという悲願を――。そして始まるのは鬼と化した炭治郎と、生き残った満身創痍の鬼殺隊の面々との戦いである。

炭治郎は、無惨の希望通りに太陽を克服した鬼となった。どうやら太陽を克服する鍵は、遺伝子という生まれながらに決まった素質に決まるようだ。無惨が太陽を克服するには、やはり青い彼岸花というものに頼るしかなかったようだ(これまで記事に書いたことはないが、無惨は上弦の鬼に青い彼岸花捜しを指示し、二百年間も見つけることができていない)。

その戦いは鬼殺隊にとっては、辛いとしか言い様がない。優しさの権化とでも呼ぶべき炭治郎の首を斬るという心理的辛さ。太陽を克服し、おそらく日輪刀で斬ったからといって死なないのではと予想された鬼化した炭治郎の強さが、大きな障壁となっている。

必至になって炭治郎を殺す方法を考える。人のままで殺してやりたいという感情と、炭治郎を斬りたくないという相反する感情で、生き残り達も読者も感情がぐっちゃぐちゃになる。

これが本当の最終決戦である。無惨の最後の抵抗とでもいうべきか。

しかし無惨よ。貴様の炭治郎に託した想いは、鬼殺隊がこれまで繋げてきた想いの前には弱かった。人間賛歌を強く感じるラストであった。

 

エピローグは全てが終わってから数百年後の世界で、それぞれの子孫の生活を描いている。いわゆる「現代パロ」というような感じだ。これまで巻末のおまけとして、鬼滅学園というネタがあった。それと同じようなノリである。

そこにあるのは鬼のいない平和な世界。彼らが命を賭した結果である。

そんなエピローグの後、作者のあとがきまで最高だった。ネタバレだけ見て満足せずに読んで欲しい結末であった。

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