※ネタバレをしないように書いています。
魔女。そう、私です。
情報
作者:白石定規
イラスト:あずーる
ざっくりあらすじ
灰の魔女・イレイナが世界を旅する物語。
「魔法使いの国」「花のように可憐な彼女」「旅の途中:妹を探す筋肉男の話」「資金調達」「旅の途中:勝負の決まらない二人の男の話」「瓶詰めの幸せ」「勝負を始める前に」「旅の途中:女の子を取り合う二人の男の話」「魔女見習いイレイナ」「緩やかに歩み寄る穏やかな死」「不細工を虐げる国」「民なき国の王女」「旅の始まり」「王位セレステリア」
感想などなど
箒に跨って、空を優雅に飛びながら、世界を旅する一人のとても、とーっても可愛らしい魔女がいました。彼女の名はイレイナ。その冒険を綴った掌編小説となっています。
「魔法使いの国」
魔女になるには、それなりに難しいようです。
魔法を扱うことができる人間、魔導士が「魔女になりたいなぁ」と思ったとしますと、まず魔女見習いになるための試験を受けます。その試験というものが恐ろしい程に難しく、合格者はなんと年に一人という狭き門。ちなみにわた……魔女イレイナはその試験に最年少で合格した天才なのでした。
大抵の人はその試験で諦めてしまうのですが、そこから魔女になるためには、本物の魔女の下で修業を受け、認めてもらうまでの努力の日々です。これは上である魔女によって難しさは左右されてしまいます。もしかしたら一日で認められるかもしれませんし、十年近く認められない可能性だってあるのでした。
その大変な試練を乗り越えたわ……魔女イレイナは名前が刻まれた星のブローチと、魔女としての名『灰の魔女』と呼ばれるようになるのでした。つまり魔女イレイナはすごいのです。
そんなイレイナは、魔法が使える者しか住むことの許されない国にやってきました。地面を歩いている人は少なく、皆が皆、空を箒で飛び交う人がたくさんいます。魔女イレイナもその中に紛れて飛んでいます。しかし、中には魔法の扱いがお世辞にも上手ではない人もいまして、猛スピードで突っ込んできた魔導士の女の子とごっつんこ。イレイナは大した怪我もなく元気ですが、ぶつかってきた少女・サヤは頭から血がダラダラ。
まぁ、そんな彼女とはすぐに分かれ、もう出会うことはない……と思っていたのですが。なんとイレイナはぶつかった際の衝撃でブローチをなくしてしまったようなのです。これは一大事。魔女であることを証明するためのアイテムがなければ、少女で可憐なわ……イレイナは魔女だと信じてもらえなくなってしまいます。
急いでブローチを探しつつ、たまたま泊まろうとした宿で働いていたサヤに協力してもらいつつ、サヤに魔法を教えながら時間だけが過ぎていくのでした……めでたし、めでたし。
みんな可愛い思い出でした。
「花のように可憐な彼女」
美しい花には棘とか毒とかあるって言うじゃないですか。あれって本当だったんですね。
「旅の途中:妹を探す筋肉男の話」
筋肉最強!筋肉最強!筋肉最強!筋肉最強!筋肉最強!筋肉最強!筋肉最強!
「資金調達」
お金が尽きました……魔法がある社会ですが、結局力を持っているのは金なのです。金がなければ腹を満たせず、布団で丸くなることもできないのです。魔女とはいえ、金を前にすれば無力なのでした。
しかし、魔女には魔法があるのです。金を稼ぐだけの策はあるのです。
……まぁ? ちょこっと嘘もついてしまったかもしれませんが、人々は幸せになっているのですから問題ありません。よくわかりませんけど、皆さんやって来てお金を払ってくれるようになりましたし、かなり魔女イレイナのことが話題になってお金問題は解決ですね。
怪しい匂いがする? 気のせいですよ。魔女イレイナの顔を見てください。とても平然とした顔をしているじゃないですか。そんな人が嘘をつくはずがないんです。分かりましたね?
「旅の途中:勝負の決まらない二人の男の話」
魔法と見分けがつかないマジックも、結局は筋肉に負ける。
「瓶詰めの幸せ」
「井の中の蛙大海を知らず」という言葉が、東の国にあるそうです。井戸の中に住むカエルは、外に広がっている海を知らない……つまりは見識が狭いことを揶揄した言葉なわけです。
そして、ふと思うわけです。この外の世界を知らないカエルは、外の世界を知ったときに何を思うのだろう、と。というか、もう井戸の世界しか知らなくても幸せならいいんじゃないかとね。
今抱えている幸せが、世界的に見ればちっぽけな幸せに過ぎないと知る必要があるんですかねぇ。とても難しい問題だと思います。
「勝負を始める前に」
突然ですけど、あなたは犬派ですか? 猫派ですか?
……は? あなたはそっち派ですか? なぜ? 理解できません。あんな獣を好きになるなんて人格を疑います。こうなったら血で血を洗う戦争をしましょう。ぶち転がしてやります。
「旅の途中:女の子を取り合う二人の男の話」
結局は筋肉なんだよなぁ……。
「魔女見習いイレイナ」
今は可愛らしくも豪胆で、立派な『灰の魔女』ことイレイナな訳ですが、彼女にも可愛らしく幼い魔女見習いの時期がありました。先ほども書いたように、魔女見習いの試験に合格した暁には魔女の下で修業する必要があります。
しかしです。十四歳という若さで、狭すぎる試験を合格してしまったイレイナは、周囲からあまり良い目で見られていませんでした。「十四歳のくせに魔術試験で他の魔法使いたちを圧倒してあっさり勝った生意気なガキ」という評価を突き付けられ続けていたのです。そんな彼女を弟子として引き受けてくれる魔女はなかなかいませんでした。
元よりイレイナのいるロベッタの国にいる魔女は、どれもあまり優秀ではありません。そんな彼女が最後にたどり着いたのは、国を飛び出し森に住む『星屑の魔女』ことフラン先生でした。
ここでの一年という期間は、その後のイレイナの性格や生き様を形作ってしまう偉大なる経験となることは言うまでもありません。
「緩やかに歩み寄る穏やかな死」
好きな相手のためならば、あなたは何ができるでしょう。
この掌編は、ただ死を待つしかない男とヒロインの物語です。しかしながらヒロインは一度たりとも登場しません。これ、ネタバレですかね。難しいラインです。
「不細工を虐げる国」
人を外見で容姿してはいけませんよ。たとえどんなに(自主規制)で(自主規制)で(自主規制)だとしてもダメですよ。というか美人の概念は、国でも時代でも変わっていくのですから線引きが難しいものです。
まぁ、魔女イレイナは誰もが認める可愛い魔女ですから、万が一にも不細工という理由で虐げられることはないのですけどね。
「民なき国の王女」
民がいて、王がいなければ国としては成立しない。つまりイレイナが訪れることになる国は、元国というべきでしょう。そこに広がるのは人の住まない廃墟が立ち並び、中央にある城には、ただ一人の王女がいるだけでした。
王女とはいっても、彼女には記憶というものが失われており、ただ唯一、彼女を王女として証明してくれるのは一枚の手紙だけです。そこにはミラロゼという彼女の名前と、王女だったという過去、そして国が滅びた原因である化け物・ジャバリエを討伐して欲しいという願いが綴られていました。
はっきりいって怪しさしかない手紙ですが、王女だったらしい女性はその手紙の通り、ジャバリエという化け物を討伐するために奮闘します。そして明かされていく国が滅びた原因と過去、そして王女だった女性の正体。
彼女はその後もずっと『民なき国の王女』であり続けるのでしょうか。
「旅の始まり」
可愛らしい魔女イレイナと、娘が心配で心配で仕方のない両親との心温まるエピソード。帰るべき家があるっていいですよね、そう思える話でした。
「王位セレステリア」
王位セレステリアというのは国の名前です。変な名前です。
その名前に恥じないとでもいうべきでしょうか。世にも珍しい魔法使いを育成する学校がそこにはあり、魔女が教師として教鞭を握っているようです。街中を飛ぶ魔法使いも珍しくなく、配達やら何やらで実際に働いている姿も確認できました。いいですね、魔法の有効活用です。
さて、そんな国にてイレイナは変な状況に巻き込まれてしまいました。彼女を取り囲むは、学校の生徒たち。子供達が告げるは「何も言わずに付いて来て下さい」、それに対するイレイアの答えは「嫌です」。
可愛らしい鬼ごっこが始まりました。みんな可愛い話でした。