※ネタバレをしないように書いています。
魔女。そう、私です。
情報
作者:白石定規
イラスト:あずーる
ざっくりあらすじ
灰の魔女・イレイナが世界を旅する物語。
「魔法使いのための国」「平和的な武器の使い方」「逃げる王女。追うのは誰か」「目撃情報」「お洒落な先駆者たち」「雪がとけるまでに」「残された遺産」「正直者の国」「爆弾の話」「土産話」「怠け者を狩る者たち」「蘇る死者の楽園」「故郷のために」「古びた国とネコ神さまの再生」
感想などなど
「魔法使いのための国」
この国には、魔法使いと、魔法使いのために尽くす奴隷が住んでいます。奴隷達は魔法使いのストレスの捌け口から、何から何までを担います。その状況を見て『不快』だと口にするイレイナ。
その言葉には、それ以上の意味はないのですが、その国の魔法使いの受け取り方はまた違ったものでした。皆さんは『不快』という言葉を、どのような意味で捉えましたか?
色んな捉え方があるのではないでしょうか?
「平和的な武器の使い方」
ここに最強の盾と、最強の矛があります。ちなみに作ったのは、灰の魔女イレイナです。
その盾と矛が欲しいという方々がいらっしゃいました。彼らは村の血気盛んな男達であって、最近になって強い武器と防具を手に入れたという近隣の村と戦争をおっぱじめようという算段なようです。
武器は人を殺すためのもの……わた……魔女イレイナとしても、自身が作った武器で血が流れるというのは良い気がしません。そこで編み出した作戦が、この短編では描かれていきます。ひょっとすると灰の魔女イレイナは天才なのかもしれません。
「逃げる王女。追うのは誰か」
大きなスカートをはためかせる王女には、逃げるシーンが良く似合います。そして逃げたその先で、幸せを掴むというのがテンプレートなシンデレラストーリーです。この短編もまた、そのテンプレとは何一つ背くことのない恋愛物語でした。
このブログの代表として、王子様の言葉には全面同意を表明させていただきたく存じます。
「目撃情報」
不審者を目撃した。そんなことを唐突に報告されたとしても、それは結局の所何を目撃したのか? 何一つ情報が入ってこない。どうして不審に感じたのか? その情報こそが最も重要だというのに。
どうせなら「全裸だった!」とか「変なお面被ってた!」とか「髪の毛レインボーだった!」とか、分かりやすい情報を提示してくれた方が、「なるほど、それは珍妙だ」と言えるのに。
この短編に出てくる人間は、確かにとてつもなく珍妙な格好であった。しかもそいつがとんでもない犯罪者というのだから驚きだ。至る所から上がる目撃情報。足取りは手に取るように分かる……はずだったが。全てに意味があるのだということを教えてくれる短編である。
「お洒落な先駆者たち」
トレンドのファッションに身を包んだ者が、お洒落と言われる。数年前はお洒落と言われていた服が、今となっては化石と言われる。トレンドを追求する者は、そんなスピード感ある世界に身を置いているのだ。
今回イレイナが訪れる国は、そのトレンドのスピードが恐ろしいまでに速い国であった。一年や二年というスピード感ではない。一日、二日という速度で目まぐるしく変わっていく国民達の服装に、イレイナは驚きよりも国に根付く文化の面白さに心引かれるのであった。
「雪がとけるまでに」
手に職つけられないものを助けるには、ただ飯を与えているだけでは駄目だ。生き方を教えなくては。誰かを救うために金を与えたとしても、それは一時的な気休めにしかならない。金の使い方を知らなければ、それはゴミにしかならない。
この作品では苦しみに耐え続ける獣人を、救おうとするイレイナの話となっている。しかし、それは生半可な覚悟でできることではなかった。
そして最後の最後、後一歩という所まで差し迫ったとき、大事になるのは本人の意思だ。
この物語の彼女が、いつか再び登場してくれることを願う。雪解けはきっとすぐそこだ。
「残された遺産」
負の遺産って言葉がありますよね。いえ、ただそれが言いたかっただけです。
「正直者の国」
嘘つきは泥棒の始まりと言いますが、この世界で嘘をついたことのない人間がどれほどいるでしょうか。もしかすると、この世界は泥棒ばかりだった……? また嘘をつくと地獄で閻魔様に下を抜かれるとも言いましたっけ。となると地獄はみんな喋れないということに……?
今回イレイナが訪れた国は、とある魔女によって嘘がつけない魔法がかけられていました。誰もが嘘をつかない国というのは、良い国に見えるかもしれません。しかし、誰であろうと心に抱えた闇を曝け出してしまって、建前なんて何処へやら。喧嘩が絶えず、怒声が環境音と化しています。
イレイナも例外ではなく、彼女の毒舌もとい腹黒さも全開です。そこで、かつて魔女になる指南をして上げた魔女・サナも加わっていきます。彼女は嘘をつけなくなっても変わらないですね……愛が重い。
さて、そんな国ではありますが、嘘をつく方法がありました。どんなルールにも穴はある。いやはや最後の戦いは見物でした。
「爆弾の話」
爆弾(正確にはダイナマイトというべきでしょうか)は元々、人を手助けするためのものだったはずでした。しかし、今も尚、それらは殺戮の道具として使われています。そのどうしようもない罪の意識と後悔の念に苛まれ、開発者であるアルフレッド=ノーベルは「産声を上げたときに、窒息させられればよかった」と後に自身のことを語っている話は有名でしょう。
さて、今回の旅の道中にて、爆弾を盗まれてしまった商人と出会います。どうやら隣の国の注文を受け、それを送り届けている最中だったようです。話を聞く限り、爆弾の周囲一帯をもろとも爆破する程の威力を持ち合わせているようでした。
その使い道はといえば、工事現場での解体作業。なるほど、人道的な使い方のようで安心しました。しかし、それで人を殺すことができるということは忘れてはいけません。そんなイレイナの不安をよそに、爆弾は人を殺すのです。
爆弾よりも人が恐い。そう思ってしまう短編でした。
「土産話」
フラン先生の英雄端。ベストセラー間違いなしですね。保存用、布教用に観賞用、予備にもう一つ買い添えておく必要もあるかもしれません。これはひょんなことから黒歴史が出版されることになってしまったフラン先生のお話です。
「怠け者を狩る者たち」
サボる人というのは、あの手この手を駆使してサボってきます。毎週のように家族が死去する人がいれば、毎日のように道で困ったおばあちゃんを助けている人もいるようです。この国では、サボりをする人が社会問題になるほど多いようです。
サボりたい気持ち良く分かります。毎朝起きる度に、二度寝したい欲求と戦うことになるのはブログ主だけではないでしょう。そんなサボり人達を見つけ出しては成敗する仕事人がいる国に、やりたいことはやらず、様々なことで我慢しないことを恩師に学んだイレイナがやって来ました。
気の向くままに旅をする彼女にとって、サボりをする人達やサボりを成敗する人達というのは面白く写ったのでしょう。それなりに腹黒なイレイナのお遊びの幕開けです。
「蘇る死者の楽園」
グールという死体みたいな化け物が、街中を闊歩しています。鼻につく匂いは死体そのもの。グールのうめき声がそこらしこから聞こえ、それに混じって聞こえる悲鳴は日を追うごとに減っていくようでした。
しかし安心して下さい。国を囲った城壁には、OPENと書かれた扉がついています。何を隠そう、ここはグールと遊べるテーマパークなのです。正しく死者の楽園ですね。
その楽園はいつまでも、いつまでも活気に満ちた素晴らしい楽園なのです。是非みなさんも行って見て下さい。楽しいですよ。ちょっと噛まれて意識が飛ぶかもしれませんが……まぁ、楽しそうなのでいいじゃないですか。
「故郷のために」
バタフライエフェクトという言葉を御存知でしょうか。中国で蝶が羽ばたけば、アメリカで竜巻が起こる、といったように些細な事象が影響を与えて大きなことを引き起こすといった意味合いです。日本語でいうところの、風が吹けば桶屋が儲かる的な意味合いでしょうか。
本作では故郷のためにと害獣駆除に勤しむ面々の話です。害獣というのは些か定義が難しいですが、狩りすぎると生態系が壊れてしまうというのは、科学が発展して教育が行き届いた現代人だからこそ抱く感想なのでしょうか。無知は罪といいますが、正しく彼らのことを指すのかもしれませんね。
「古びた国とネコ神さまの再生」
そういえば最近、家でネコを飼うようになったんですよ。尻尾が二股に分かれてて、それはそれは可愛いんですよ。ネコ様のためなら死ねますよ。もしもの時は迷わず命を捨てる覚悟があります。ねぇ、ネコ様。今日も仕事に行かずにネコ様だけを触って生きていきたいと思います。ネコ様。こちらちゅーるになります。マグロ味です。
ネコって可愛いですよね。あなたはネコが好きですか? もし嫌いというのであればネコ様の天罰が下りますよ。