※ネタバレをしないように書いています。
魔法使いになりたい
情報
作者:虎走かける
イラスト:いわさきたかし
試し読み:魔法使い黎明期 3 卒業試験と戦争の気配
ざっくりあらすじ
《災厄の残滓》が放たれて襲撃を受けたことで、警戒を強める一行。これで攻撃が終わるとは思えないというゼロ達が予想するが――そして遂に戦争が起きてしまう。
感想などなど
《災厄の残滓》は人が踏み入ることのできない北の大地で跋扈する生命体の総称だ。生命体というには、生物を殺すことに特化しすぎた形態をしており、兵器として扱うにしても細心の注意を払わなければいけない。その脅威は第二巻の時点でよく分かっていただけたことだろう。
もしも村に魔法使いがいなかったらと考えると、村がたやすく滅びる光景が想像できる。
ただ厄介なのは、村に魔法使いがいなければ、《災厄の残滓》が放たれることもなかったのではないかということだ。北の大地にしかいないはずの奴らが、魔女に対する差別が根強い南の大地にいるという状況に、教会の人為的な介入を予想するのは、それほど突拍子のない発想ではないだろう。
これまでだって、暴虐と呼ばれる魔女狩りを差し向けたり、ホルトを洗脳して魔法学校に潜入させたりといった人とは思えぬ所業をしてきたことは記憶に新しい。そして魔女を受け入れる村も、魔女と同罪として滅ぼしても構わないという発想は、人類の歴史でいくとどなく繰り返されてきた。
そんな教会の本気が、この第三巻では突きつけられる。
この第三巻で教会側が村に仕掛けた罠は、人道に反しているとしか思えない。タイトルで「戦争の気配」とあるが、もはやこれは戦争である。これまでホルトもクドーもゼービルも、人を殺したことがなかった。
それは彼らがまだ子供だから。
殺さなくても何とかなるような状況だったから。
ゼロとロイという超強い魔法使いが二人もいる状況で、彼らが誰かを殺さなければならないような状況に追い込まれる事態というのは、いささか想像しにくいことだった。そんなぬるま湯みたいな状況は終わりを告げる。
ゼロもロイもいない。自分たちが殺さなければいけない――そんな状況に追い込まれるくらいに、教会の罠は狡猾で凶悪だった。第二巻の蜂もかなりの強敵だったように思うが、今回の《災厄の残滓》はその外観も能力も、人を苦しめて苦しめて殺すような気色悪さに満ちている。
この第三巻の感想を書いているのは、魔法使い黎明期のアニメが放映されようとしているタイミングだ。巻数的にも、この敵はしっかりと描いてくれると思われる。怖い反面、どのようにアニメで描かれるのかが楽しみだ。
そんな凶悪な教会の魔の手に対抗するために、ゼービル達は強くならなければいけない。特に十三番の息子であるという自身の出生を知ったゼービルは、その過去を受け入れるという大きな壁があった。それが難しいと思っていたからこそ、ゼロ達はそのことを隠していたのだ。
しかし、ゼービルは立派にその壁を乗り越えて強くなるために頭を使い始め、自分の弱さを理解し、時間も努力も足りないことを悟った。これはとても大きな一歩ではないだろうか。
そして分かってくる。このゼービルという少年は、とてつもない逸材であった……と。無尽蔵な魔力量、あの十三番の息子であるが故に生まれ持った才能は桁違いだった。そんなゼービルの大幅なパワーアップがあったが、村は教会の情け容赦ない猛攻をしのぐことができるのか。
緊張の第三巻であった。