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魔法使い黎明期4 貪恋の悪魔 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

魔法使いになりたい

情報

作者:虎走かける

イラスト:いわさきたかし

試し読み:魔法使い黎明期 4 貪恋の悪魔

ざっくりあらすじ

魔法学校を卒業し、学長から正式に北の大地に生息する《災厄の残滓》の調査を命じられたセービル達。ひとまず向かうは、教会が閲覧を禁止した書籍ばかり集めた禁書館。そこには全てを見通す館長や、かつてロスが育てた男が住んでいて……

感想などなど

教会との抗争を、無血で治めたせービル達御一行。これは一介の学生がするような内容なのだろうか。ゼロや傭兵、ロスといった歴戦の猛者の助けがあったにせよ、せービル達が成し遂げたのは、教会と魔女の戦いの歴史において大きな意味を持つように思う。

有能すぎるが故に僻地に飛ばされ、退学させられそうになっていたせービル達であったが、第三巻における活躍を買われ、無事に卒業することができた。めでたし、めでたし。

卒業したからには、立派な魔法使いとして扱われ、相応の仕事が割り振られる。セービル達には、北の大地に生息する《災厄の残滓》の調査が命じられた。ついでにロス先生が行きたがっていた禁書館へと向かうことになった。

北の大地は、せービル達の村に放たれた《災厄の残滓》の一種。死体に取り付き近づいてきた者を喰らう悪魔は、『死体ごと運ぶ』という方法で教会に持ち込まれ管理されていた。その強さ、悍ましさはここまでの物語を読んだ方ならば分かっていただけるだろう。

現在、北の大地はそういった《災厄の残滓》がはびこっており、とてもじゃないが人の生活できる環境ではない。そんな大地に足を踏み入れ、少しずつ調査・開拓を進める組織が魔法兵隊であり、その補佐としてセービル達は禁書館へと行くのだ。

禁書館は北の大地にあり、教会が閲覧を禁じた書籍が集められている。その中には《災厄の残滓》の情報をまとめた書籍があり、魔法兵隊はその情報を片っ端から目を通している。

しかし現在あるこの書籍は完璧ではない。この本の執筆者は千里眼のような力で見通すことで《災厄の残滓》を調査しまとめた。そのため《災厄の残滓》に関する聴覚・嗅覚・味覚・触覚といった情報が欠如している。実際、それらを前にして戦う時、逃げる時といった場面でそういった情報が必要になることの方が多いという訳だ。

それらの調査がこの第四巻の主眼……といいたいところだが、調査どころではない騒ぎが発生する。

 

禁書館というだけあって、そこには魔女が数多くやってくる。ここに来たがったロス先生も、そんな魔女の内の一人である。魔女というのはどうにも変わり者が多い……いや、頑固者とでもいうべきか。

ロス先生は三百年もの長きを不老不死で生きているが、館長も同様の性質を持っている。見た目はどうみても子供であるが、その実態はあらゆる物を見通す千里眼の力を有しており、その力は強力だ。

ウルラという少女もまた、この禁書館に足蹴よく通う有望な魔女だ。ただ、どうにもせービル達に対する当たりが強い。実は彼女、セービル達が通っている魔法学校を受験し、落ちてしまった経歴の持ち主なのである。つまり、自分より劣っているようにしか見えないセービル達のような奴らが、学校を飛び級で卒業してしまう事実が許せないのだ。

読んでいけば分かるが、彼女は自ら魔法を開発してしまうくらい魔法の実力がある。禁書館を出入りしていて、かなりの本を読んでいることから、魔法の知識のみならず、北の大地の知識も相当に持っているだろう。そんなウルラが落ちて、セービル達が合格する……たしかに、読者ですらその格差にどうにも納得できない。

幼少期から魔法の才能があったウルラは、人間社会では生きていくことができず、もう少しで村人に殺されるところであった。そんな彼女を引き取ったのが、フィアノスという魔法使いだ。実力はかなりのもので、黎明の魔女ロー・クリスタルと本気で潰し合ったら、おそらく彼が勝つと思われる。

まぁ、本気で潰し合うような事態は考えにくいが。

なにせこのフィアノスという男。かつてロー・クリスタルが引き取って育てた男の子であり、フィアノスは育ての親であるローのことを女性として愛しているのだ。フィアノスの初登場シーンは、なかなかに衝撃的である。見た目は子供のロー・クリスタルに向かって、「ママ!」と言いながら抱きついていく大の男の姿は、できれば一生見たくないシーンである。

そんなフィアノスには、もう一人拾った子供がいる。いや、正確には死んだ子供に憑依した悪魔とでもいうべきか。まるでウラルの姉妹のような可愛らしい彼女の名前はククル――貪恋の悪魔である。

 

貪恋の悪魔は、人の感情を操り恋させることができる。そのため誰からの愛であろうとも、自由に享受することができる。だからこそ、ククルは真実の愛を求めた。フィアノスは、その悪魔と契約し、愛し合う家族を提供することを約束した。

この第四巻の物語は、真実の愛を求めて藻掻く物語である。貪恋の悪魔はもちろんのこと、ロー・クリスタルも、セービルも、フィアノスも、みんながみんな愛というものに飢えている。

北の大地という地獄のような環境だからこそ、起こってしまう愛の物語であった。

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