※ネタバレをしないように書いています。
殺したぐらいで、俺が死ぬとでも思ったか
情報
作者:秋
イラスト:しずまよしのり
ざっくりあらすじ
魔王と勇者が共闘する、被害が広がる前に戦争を終わらせた。そして本当の魔王として、魔族を統治する……ことになるはずだったのだが。
感想などなど
これまで幾度となく名前が登場していた魔王の右腕・シン。第四巻上巻にて、彼が魔王を裏切り偽物の魔王が、名を広げる手助けをしていたことや、勇者の転生者であるレイの脅迫をしていた犯人が、実は彼であったことなどが次々と明かされていった。
魔王に忠誠を誓った彼が、そのような魔王に背くような行為に手を染めた理由は何か?
その鍵を握っているのは大精霊レノであろう。魔王が死んで転生するまでの千年で何があったのかを知るために、偽の魔王・アヴォスが猛威を振るっていることを横目に見つつ行動を開始する。
第一巻にて殺した時の神を思い出して欲しい。その時に取得したアイテムを用いて千年前へと飛んだ魔王様一行。そこで判明していくシンの過去には、あまりに辛く、しかし美しい恋物語があるのであった。
さて、最初にも書いた通りシンは魔王の右腕といわれていた。その理由は剣の実力だけではなく、魔王に対する忠誠の高さも理由の一端を担っているであろう。アノスに託された命ならば、自分の命を投げうってでも達成させようとする心意気の高さは、そう簡単にまねできるものではない。
そんな彼に対して、魔王が死ぬ前に託した命令は「大精霊・レノの護衛」であった。
全ての精霊の母とされている大精霊・レノ。アノスが世界を千年に渡って四つに分断する大魔法を使う際、協力してくれた強者の一人である。どうやら彼女のことをつけ狙うしつこい神がいるらしく、そいつから彼女を守らせようとアノスが考えたようだ。
アノスの思惑通り、神はレノに向けて様々な敵を差し向けてきた。だが流石は魔王の右腕、危なげなく戦闘力においてならば負けることはないと言っていいだろう。この世の摂理そのものである神に対して、全く引けを取らない。
レノのそばに常に寄り添い、彼女のために剣をふるうシン。徐々にではあるが、神からの攻撃も緩みつつあった。レノのことを諦めたか、もしくは力が衰えつつあるのか、はたまたもっと別の理由があるのか。真相はシン達の視点からは分からない。
魔王が託した命ではあったが、そこに明確な期限というものは定められていなかった。しかしレノの安全が保障されたとなれば、今すぐにでも命を絶ち、千年後に転生してくるというアノスと同時期に転生したいと考えていたシン。
そんな彼に対して、もっと一緒にいたいと考えたレノ。その些細な思いは募っていき、最後にははっきりとした愛へと変わっていく。
シンは剣で斬ることでしか思いを表現できない男であった。そんな男に斬ること以外の剣の使い方を教えた存在こそが、魔王アノスであった。そんな新たな生き方というものを与えてくれたアノスに対して、シンは忠誠を誓った。
しかし、シンは未だに愛という感情を知らずにいた。アノスもさすがに、愛を教えることはできなかったようだ。まぁ、教えようという気もあまりなかったように感じるが。
そんなシンに対して、まっすぐすぎる感情をぶつけてくるレノ。彼女が言った「愛を教えてあげる」というセリフは、シンに向けた最上級のプロポーズだとブログ主的には思うのだ。
そんな二人の関係性が、そのまま幸せなEDを迎えなかった。
神はレノのことを諦めていなかったのだ。ここで神がレノを狙っていた目的を語らせてほしい。
「レノに神の子を産ませる」
幸せの形は様々ある。シンとレノは二人が愛し合ったという結果を形として残そうとした。アノスに忠誠を誓ったシンにとって、死んでアノスの後を追うということは、何よりも優先すべき事象であった。
再び二人が会えるとすれば、アノスと共に転生してくるであろう千年後。寂しさを紛らわせるため、もしくはシンが愛を思い出すため……神はそこを狙った。
おそらくこのブログを読んで、嫌な想像がよぎった方も多いことだろう。きっとその想像は当たっている。
そんな絶望を魔王は砕く。神の作った摂理すらも、魔王の前には無駄なのだ。最後まで読んでよかったと思える第四巻であった。