※ネタバレをしないように書いています。
殺したぐらいで、俺が死ぬとでも思ったか
情報
作者:秋
イラスト:しずまよしのり
試し読み:魔王学院の不適合者 6 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜
ざっくりあらすじ
転生により失われた記憶を取り戻すため、夢の番神の力を借りたアノス。夢で見た幼き頃のアノスは、妹を守るために竜と戦っていた。その妹の名前は、共に選定審判を戦う神と同じ名前――アルカナであった。
感想などなど
地下に広がる竜人の住む世界では、地上とはまた違った信仰や神との付き合い方が行われていた。それを形作っている儀式が、選定審判と呼ばれ、神に選ばれた代表者が選んでくれた神と共に争い、最後に残った者を神の代行者と決めるというものだ。
アノスはその選定審判に選出されていながら、肝心の共に戦う神がいないという意味不明な状況だった。しかし、第五巻の最後ではアルカナを神として迎え、共に戦うこととなった訳だ。
さて、ようやく選定審判に参戦できると言って良いだろう。
しかし、アノスとて暇ではない。何の秩序を司る神か忘れてしまったアルカナの記憶を取り戻さなければいけない。アノス自身が転生の際に失ってしまった記憶も、取り戻さなければいけない。選定審判が何を意味してるのか、怪しげな地下世界の動向にも目を向けなければいけないだろう。
アノスは強欲だ。自身の国の平和だけでなく、地底世界も含めた全ての平和のために動き、それができるだけの実力が伴っている。
そんな中、夢の番神の力を借りることで、彼の記憶の断片を見ることができた。それはアノスが幼い頃、アルカナという妹を連れて竜から逃げているというものだった。アノスに妹がいたというのは、これまで読んできた者にとって驚きであろう。
……記憶が正しければ、アノスが生まれると同時にアノスの母は死んでいたような……まぁ、生まれて間もない記憶など曖昧なものだ。それに妹だからといって、必ずしも血が繋がっているとは限らないし。そこに矛盾はないか。
だが、妹の名前がアルカナとは。できすぎた偶然だ。なにせ今アノスが共に戦うことを誓った神の名前もアルカナなのだから。神のアルカナと、妹のアルカナは同一人物なのだろうか。
難しい、この断片的な夢だけで全てを判断してはいけないだろう。さらなる調査を進めていく。
この第六巻でアノス達が辿り付いたのは、神竜の国ジオルダルが1500年という長い時間をかけて築き上げた存続を賭けた作戦の結末であった。教皇が代々引き継いできた計画が、アノスがやって来た今、解き放たれたのだ。
1500年……気が遠くなりそうな時間の長さだ。
その過去の積み重ねを無駄にする訳にはいかない。これは現教皇ゴルロアナだけの問題ではなかった。今更、それを止めることなどできなかったのだろう。
彼らが望んだのは、地上と地下を分け隔てる天蓋の破壊であった。地下に生まれたという理由で、空を見たことはなく、食物も地上ほど豊かではない世界において、地上というのは希望であり夢だったのだろうと思う。
彼らにとって、この戦いは正義だったに違いない。
それを迎え撃つアノス。ここから先が、凡百の王とアノスとの差であろう。ジオルダルが望むものと、アノスの平和を望むという二つの願いを、同時に叶えようとするアノスの強欲な正義。
その果てで出来上がるは、世界を1000回滅ぼしてもお釣りがくるという超魔術だと予想できる者がいるだろうか?
アノスは強欲だ。そんな彼が救ったのは地上やジオルダルだけでなく、アルカナという悲しき少女の願いも叶えることとした。彼女に関する謎が繋がって、描き出す悲しき真実でさえも解き明かし、戦いの中で救っていく。
作り込まれた設定や戦闘シーンばかりクローズアップされがちだが、暖かな気持ちになるハッピーエンドを、アノスが導いてくれる安心感が、本作の魅力なのではないだろうか?
少なくとも、自分はそのように感じている。