※ネタバレをしないように書いています。
家族・友達
情報
作者:小川麻衣子
出版:小学館
試し読み:魚の見る夢 2巻
ざっくりあらすじ
母が死に、父は仕事に没頭して家に帰ってこなくなり、二人で暮らすことになった姉妹の日常。
感想などなど
普通に生きることは難しい。恋愛なんてその最たるものだろう。異性同士の恋愛ですら上手くいかないことが多いと言うのに、同性同士の恋愛が上手くいくのは難しいのではないだろうか。
それがさらに家族同士の姉妹間の恋愛ともなると、もっともっと難易度は上がる気がする。いつからか姉に対して特別な感情を抱くようになった御影と、大学に行って独り立ちを望む巴。二人の関係性は互いに望む形になれるような気がしない。
そんな恋模様は初っ端からクライマックスを迎えてくる。
風呂上りバスタオル一枚で巴に話しかける御影。それに対して思わず頬を赤める御影。「あ……これは」と察する読者。二人で寝室へ向かうも、「わたしとこの先のことがしたいの?」という巴に、「好きな人とだったら溶けたくなるよね」と返す御影。もう互いに分かってはいただろうが、これはもう告白であろう。
だが、二人が肌を重ねることはなかった。
「人を好きになるって何……?」
と御影は巴を拒絶した。心にぽっかりと穴が開いたように欠けた少女の悩みは、かなり根深い。
好きだと相手に思いを告げて、それに相手が応えてくれるとは限らない。それが怖いからこそ、告げる前に頑張るのだろう。御影が巴に首輪を付けたのも、そんな布石の一つだったのだろう。
それでも拒絶された時、告白した側は思う。
「こんなに好きなのに」と。
だが思われる側だって楽ではない。御影は巴のことが好きだが、そんな御影のことが好きな子だっている。
学校の同級生である高柳は、御影ととても仲のいい女の子だ。だが、巴と御影の二人の関係性に割って入る勇気もなく、ただ時間だけが過ぎていく。そのことが嫌で、一歩踏み出した時の御影の反応は意外なものだった。
「高柳がこういうことしたいんだったら、高柳だったらいいよ」と。
拒絶せず、むしろ肌を重ねに向かって行った。その行動が高柳を傷つけることになろうとは知らずに。間違いが起きたとき、人に思われることの責任の重さを痛感した御影は、そこから様々なことを考え始める。
みんな望んだ家族や友達、恋愛の形があって、それを目指してあがいていた。きっと一人残らず寂しがりやなのだ。例えそのあがきによって、相手が傷ついたとしても、傷つけられたとしても止められない感情がある。
その感情にまっすぐに向かっていった人物として、分かりやすい人間は九条という巴の友達であるように思う。御影の友達であり続けた彼女は、最後の最後でその関係の全てを壊しつくしてでも、自分の望んだ関係性というものを構築した。一種の狂気だ。
この作品を最後まで読んで彼女のことを嫌いになった者もいるかもしれないが、嫌いになりきれないブログ主のような人間も、この世界には少なからずいるような気がする。
全く結末の予想できない展開が続く作品だったが、上手い形で絞めてくれたと思う。難しい作品であった。