工大生のメモ帳

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この世界にiをこめて 感想

※ネタバレをしないように書いています。

小説は人生を変える。

情報

作者:佐野徹夜

ざっくりあらすじ

退屈な高校生活に生きづらさを覚える僕に、ある日届いた一通のメール。

【現実に期待なんかしてるから駄目なんだよ】

でも、それは来るはずのないメールであって……。

屈折した僕の唯一の女友達 吉野紫苑。彼女は半年前に死んだ天才小説家だった。

あり得ないはずのメールのやりとり。

時期外れの転校生。

そして、たどり着く彼女の最後のメッセージ。

感想などなど

この物語の背景には一人の女性の影が常につきまとう。半年前に死んだ若き天才小説家吉野紫苑である。

主人公と彼女は同じ中学の文藝部であり、共に小説を執筆し見せ合う仲であった。

吉野紫苑は天才だった。中学生にして彼女の作品は本になり書店に並び、将来を有望視されていた。

そんな彼女があっさりと死んだ。

彼女は少し、いやかなり変わっていた。愛とは何であるのかを友達に訊ねる。「私は人を愛せない」と度々口にする。

恋心を知らない彼女と、ひねくれ者の主人公。二人の関係性とは一体何だったのだろうか?

 

彼女の死後。主人公はメールを彼女に送り続けていた。返信なんて来るはずもないのに、半年間ずっと、だ。それほどまでに彼女の存在は彼にとって大きかった。

そして、唐突にやってくる返信。そのメールの主は、二人の間でしか知らない情報を知っていた。疑いながらもメールのやりとりを続け、いつしかぽっかり空いていた心の隙間が少しずつ埋まっていくのを感じていた。

奇妙な関係性である。

設定だけをポンと見せられればホラーだと言われてもおかしくない。死んだはずの女性からメールが来るのだ。悪質な悪戯か、はたまた幽霊からのメールか。どちらにせよまともに取り合おうとは自分だったら絶対にしない。

しかし、主人公はメールのやりとりを行った。退屈だと感じてきたこの半年間を取り戻すために。

これから先に踏み出すために。

 

吉崎紫苑。彼女の紡いだ物語は文字通り多くの人の人生を変えていた。そういう力を持っていた。

これはそういう物語である。

文藝部員として、物語を綴る者の一人として、心に響く作品でした。

この世界に i をこめて (メディアワークス文庫)

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