※ネタバレをしないように書いています。
たとえいなくなったとしても……
情報
作者:五十嵐雄策
イラスト:ぶーた
ざっくりあらすじ
いつからだっただろうか。この世界で奇妙な現象が起こり始めたのは。
人がその名前も、周囲との関係も、ありとあらゆる思い出を忘れてしまう。そうして、誰の記憶からも消えてしまうのだ。
――忘却病
いつしかその現象はそう呼ばれるようになっていた。いつかこの世の全ての人が互いに忘れてしまったとき世界はどうなってしまうのか。それに抗うように、僕は保健室登校の生徒、桜良先輩と一緒に、忘却病に罹った人々の最後の願いを叶えるべく『忘却病相談室』を始めることになった。
そんな中、この現象の真実に近づいていく。
感想などなど
今回の作品は忘却病に蝕まれていく学校のクラスメイト達と主人公達との関わりを描いた短編集となっている。設定としては「FF零式」を思い出しました。あれは死んでから忘れるという物でしたが、こっちは生きている合間に周りの人達から忘れ去られていくという、生き地獄のような残酷なものです。
さて、桜良先輩と『忘却病相談室』を保健室でやっていきます。やることと言えば忘れ去られていく人達の最後の願いを叶えるというもので、やってくる人達は忘却病の前兆として仲の良かったはずのクラスメイト達に徐々に忘れ去られていく最中、最後に叶えたい思いを抱えてやってきます。
それは家族関係のことだったり、好きな人に関係することだったり、親友に関することだったり……。
どれも人間関係に関するもので、人が最後の最後に望むものは個人差あれどそういうものなのかな、と色々と考えさせられます。
二人は協力してそれらの願いを叶えていきます。
そして、あっさりと当たり前のように最後には忘れていきます。苦労して願いを叶えたはずなのに、願いを叶えてあげたことだけでなく、名前も存在も思い出も全てがぽっかりと消えてしまう。
そんな悲しすぎる現実を前にしても、主人公達は ”忘れてしまったから” いつも通りの日常を歩んでいきます。
どんなに忘れたくないと言葉を並べ立てても、みんな忘れていきます。救いはいつまで経ってもやってきません。
忘却病を皆受け止めて生きています。
これは恋愛物語です。
終わる世界……この忘却病がこのまま広がっていけばいずれ終わってしまうことでしょう。そして、たとえどんなに残酷な世界だとしても、誰か人を好きになってしまうものです。
それは忘却してしまうと分かっていたとしても避けられないものです。
あまりにも残酷すぎる現実を前に、主人公は一体どんな選択をするのか。残酷であり、きれいな物語でした。