※ネタバレをしないように書いています。
私は――僕は――この恋を忘れない
情報
作者:葉月文
イラスト:ぶーた
ざっくりあらすじ
「ねぇ、由くん。わたしはあなたが――」
初めて聞いたその声に足を止める。初めて会ったはずなのに、何故だか彼女は僕のことを知っていて、僕自身もその声を聞いたことがあったような気がして……。
笑って、泣いて、怒って、手を繋いで。何度も何度も何度も何度も、思い出を作っては記憶から消えていって、存在しない約束を積み重ねていく。
僕は知らなかった。
彼女――椎名由希――の「初めまして」に込められた意味すらも。
感想などなど
電撃文庫大賞金賞受賞の本作。遅ればせながらも感想をしたためさせて貰おう。
さて、この作品を読んだ人なら分かると思うが、最初は全くもって意味が分からない。
唐突な告白に、初対面の女性に誘われてほいほい着いていく主人公。
しかも、ただの女性ではない。ものすごい美人で、何故だか自分の名前を知っていて、馴れ馴れしくて、記憶にない約束を振りかざしてくる。
……ここだけの説明を見れば新手の詐欺師のようであるが、どうやら詐欺行為で金をむしり取られるようなことはないらしい。
第一章ではそんなこんな(どんなだか)大学の学祭で公開されている映画を二人で見に行く。大学に行って主人公がエキストラとして映ったシーンを二人で眺める。監督に目をつけられた由希は、次に撮影する映画に出てくれないかと声をかけられるも「映画に出ることはできません」と答える。理由を尋ねて見るも「約束だから」と彼女は答える。
そして、最後の印象的な一行
――うそつき
さっぱり意味が分からない。そして、第二章が始まっていく。……うん、やはり意味がよく分からない。
そんな意味の分からないストーリーも中盤、景色がガラッと変わってくる。第一章の台詞の一つ一つの意味が分かってくるのだ。
あらすじでも示していた通り「初めまして」の言葉一つとっても、自分たちが日常で使っている「初めまして」とは全くもって意味が違うものになってくる。
あまりにも悲しすぎる現実を前にして、物語の登場人物達はいつもと変わらない日常を過ごしていく。ただ一人、椎名由希を置いていって。
「好き」という一言を互いに交わす……そんなエンディングに向かう長い長い恋愛物語です。一周読み終えた後、二周読みたくなること間違いなしの感動作でした。