工大生のメモ帳

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二四〇九階の彼女 感想

※ネタバレをしないように書いています。

幸せとは

情報

作者:西村悠

イラスト:高階@聖人

ざっくりあらすじ

 無数の階層が重なる塔の世界。

その各階層は神の代行者であるアントロポシュカによって管理されていた。その階層の人々が【幸せ】に暮らせるという命題を与えられて。

しかし、あまりに永い悠久の時を経て、多くの狂いが生じていた。

【幸せ】に狂った世界の中を、少年・サドリは相棒のカエルと共に海を目指して塔を下ってゆく。

かつて交わした彼女との約束を果たすために

感想などなど

 ジャンルとしてはファンタジーに入るのだろうか……いや、SFだろうか。

階層を下るごとに広がっている不思議な世界を、鍵となる人を探して旅をする連作短編となっている。読んだ人ならばキノの旅を思い浮かべるだろう。

今作は一貫して《狂った幸せ》が存在する。

これだけでは分かりにくいかも知れないので、ちょっと例を挙げてみよう。

自分の身に明日何が起こるのか、自分の選択によってどう動くのか全てが分かったとする。

つまり何をすれば【幸せ】になれるのか分かっているということだ。

……はてさて、これは本当に【幸せ】なのだろうか。不幸に見えたその先に幸福が待っている……なんてことはないのだろうか?

もう一つ例を挙げてみよう。

人類には言わずもがな数多くの人間が存在し、それぞれ個性を持って生きている。

当然【幸せ】だと思うようなことも、人それぞれだ。

さて、人類皆が幸せになるためにはどうすれば良いだろうか?

その答えは作品を読んで確認して貰いたいところである。ここまで読んでもらって何となく、「難しいテーマを扱っているんだな……」と分かってもらえれば幸いだ。

 

ラノベだと思って、表紙の可愛らしい女の子に惹かれて、この作品を手に取って読んだ人は驚くことになるかも知れない。

テーマは何度もこれまで登場している言葉【幸せ】である。しかも、ただの【幸せ】ではなく、狂った【幸せ】だ。かなり重たい。

階層を下っていくわけだが、その旅にその世界で出会った人達とは別れることを余儀なくされる。

また度々その世界の人々を救えないか奮闘するが、大した力も持っていない少年には何もできない。いや、ある意味救っていたかも知れないが、それも本人達にしか分からない。

もの悲しい雰囲気が始終漂う。文章も相まってそんな雰囲気がさらに増していた。

 

残酷であり、どこか暖かく、切ない物語。読み終わった後に物足りなさを感じてしまったのは自分だけではないだろう。

二四〇九階の彼女 (電撃文庫)

二四〇九階の彼女 (電撃文庫)