※ネタバレをしないように書いています。
※これまで(出版順)のネタバレを含みます。
終わりなき一日が始まる。
情報
作者:上遠野浩平
イラスト:緒方剛志
ざっくりあらすじ
二月十四日の聖バレンタイン・デイ。
都市のど真ん中に立てられた奇妙な高層建築物<ムーンテンプル>はその取り壊しを目前にして、観覧イベントが催された。
建物の前には多くの人が集まり列をなした。
どこかぎこちないカップル、ブギーポップの正体を知る男子高校生。炎の魔女に恋する男。 シングルマザーにその子供。年齢も性別もバラバラな多くの人々に、歪曲王はささやきかける。
感想などなど
作品を読んで最初に思い浮かべたのは筒井康隆著「パプリカ」だった。夢と現実の交錯するSF大作であり(本作はSFではないけれど)、同じように少し奇妙な世界が広がっている。読んだことのない人には是非ともおすすめしたい。
とりあえずそれは置いておいて。
今回の舞台はムーンテーブルと呼ばれる高層建築物が舞台であり、この建物には157mという高さがあるにも関わらず、あるべきはずの階段が存在しない。なんと全てスロープである。
そんな利便性皆無の建物の観覧イベントが開催され、多くの人々が今か今かと扉が開かれるのを待っている場面が冒頭となっている。そこには何人か見慣れた人物の顔があるので、一巻「ブギーポップは笑わない」を読んで貰ってから読んだ方が良いかもしれない。
そんな見慣れた顔の一人が竹田啓司。ブギーポップもとい宮下藤花の彼氏であり、一巻冒頭で「ブギーポップと談笑していたら、気がついたら事件が解決していて何が起こったか知らない」人である。今回はどういった立ち位置なのか。
そして一巻ではスタンガンを持ち人食いであるマンティコアに立ち向かい、竹田啓司に告白し振られた風紀委員、新刻敬も登場。竹田啓司同様、ブギーポップの正体を知る数少ない人物であり、本作でも大活躍してくれたりする。
他にも多くの個性豊かな登場人物がおり、性別も年齢もバラバラである。しかし共通点があった。いやこれは全人類に共通することか。
そこが歪曲王にとって、人々にささやく甘い言葉であり、つけいる隙なのである。
度々登場する歪曲王という名前。それだけではどんな事件が起こるのかは全く分からないだろうと思う。
歪曲・・・・・・歪めて曲げる? 何を?
事件の概要をざっくりと説明しよう。建物が開かれ、中に入ると停電により真っ暗闇。外に出ようにも扉は何故だか開かない。目が覚めると見たことのある場所にいて、目の前にはもう会うことはできないはずの人がいた。
・・・・・・。
まず前提として全員、建物の中にいたはずである。しかし目が覚めると過去に見たことのあるような場所にいて、会うことがもう叶わないはずの人が目の前にいる。
そしてその人物は語り出す。
「我が名は歪曲王―」
今回の敵はなんと夢(?)の中に登場。さて今までワイヤーで敵をバッサバッサと倒してきたブギーポップは果たしてどうするのか。注目して欲しい。
ここでもう一つ考えて貰いたい点がある。それは「会うことがもう叶わないはずの人がいる」という点だ。
皆さんにお聞きしたい。会えるならばもう一度会いたい人はいるだろうか。
おそらく人類皆、どんな形であれ会いたい人がいるはずだ。「先立たれた友達」「思いを伝える前にいなくなってしまった人」「先に死んでいった親友」
そんな人が目の前に現れて、冷静になれる人がこの中に何人いるのだろうか。
今回のテーマは「思い」だろうか。
伝えたい ”思い”。 忘れたくない ”思い”。 胸に刻み込んだ ”思い”。
数多くの人の思いが渦巻いて、それは時に力となり、時には弱みとなってしまう。どちらに転ぶかは自分次第。
それとブギーポップが強すぎる。今回は一際それが目立ったように思う。いやぁ、まさか〇〇に勝っちゃうとはなぁ・・・・・・。