工大生のメモ帳

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タタの魔法使い2 感想

【前:第一巻】【第一巻】【次:第三巻

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます。

救ってくれるのも、また夢。

情報

作者:うーぱー

イラスト:佐藤ショウジ

ざっくりあらすじ

私立折口大学付属私立高校の1100名を越える生徒は、カカと名乗る魔法使いによって、学校ごと異世界に転移させられる。その全員が学生時代の夢を叶えた形で。

1000名を越える犠牲者を出した事件の幕開けである。

感想などなど

一巻(タタの魔法使い 感想)ではタタを「虐める奴を消したい」みたいな夢を持った人が、タタを「いじめをする悪い奴」と認識することで消しさりました。いわうる、自身の「夢を叶える」という魔法によって死んだ……という結末でした。

こうして書くと、何だかあっさりとしているように思いますが、多数の犠牲者を出してギリギリに追い詰められて、「もう駄目だ……勝てない」と思った時のこの展開ですからね。かなり衝撃的でした。

そんな感じできれいに完結した訳ですが、今回はそんな「タタの魔法使い」の続編。といってもタタはもう消えてますので、彼女の妹であるカカが今回のラスボスに当たります。

 

今回も前回と設定は大きく変わらず、「ヒーローになりたい」と卒業文集に書いた人はヒーローに相応しい力を持った人物となって異世界に転移し、「コックになりたい」という人はコックとして転移する。

ここでは個人的に好きな夢を叶えた人を二人ほど紹介しよう。ある意味ネタバレだが、「こんな夢を持った奴が活躍するのか……」と期待を持って読み進められるだろう。

まず「絶対に鍵を開けられない部屋」。何だかSCPでいそうな夢であるが、何も嘘は着いていないので仕方がない。夢もそのままの意味であり、絶対に鍵を開けられない部屋が欲しいということだ。

そんな夢を中学生という多感な時期に抱いた理由は……直接的に言うのはあまりにはばかられる。多感で男女の差を意識し始める思春期まっただ中の男子中学生が、夜に自分を慰めている時、家族に部屋の扉を開かれることによる精神的ショックの大きさを想像していただきたい、とだけ書いておこう。

……まぁ、「これを卒業文集に書いたのか……」という別の衝撃的な話もあるが、それは置いておこう。そんな彼の夢は「が部屋にいる限り、何があろうと部屋の鍵が第三者によって開かれない」という形で叶えられたのだ。

次に「魔法使いになりたい」という夢だ。これは第一巻でも書いている人がいて、事件では大きな活躍をしてくれた。本作でもそうなのだろう……と思いきや、この ”魔法使い” の意味が少しばかり違う。

ネットに慣れ親しんだ人なら分かるだろうか? 「30歳まで童貞であれば、魔法使いになれる」というネットで良く使われる自虐ネタを。ここで言う ”魔法使い” は、「30歳まで女性との性行為を一切しない」ということなのだ。

……「これも卒業文集で書いたのか……」と思うが、それはまた置いておく。問題となってくるのは「30歳まで」という点だ。これについて、もう少し深く考えてみると、「30歳までは絶対生き残れる」ということにならないだろうか?

 

本作は前作と少しばかり雰囲気が異なる。現代とは異なる異世界でのサバイバル生活が、ストーリ上で大切であり面白いのは勿論であるが、現代に戻って来てからの生活や世間の報道にも焦点が当てられ描かれているのだ。

しかも、かなりゲスい話が展開されていく。

当然であるが、異世界の話は異世界に行った人間にしか分からない。異世界での生活を報道するに当たっては、分からない部分はいくらかの ”想像(妄想とも言う)” で補うことになる。そして結果として、マスコミは世間の注目を集めようと、奇抜な脚色などを行う。

マスコミだけではない。まとめサイトはネット上のソース不明の情報を、さも本当のように書き、タイトルでは誤解を与えるような過激なものとなるのは、実際にも珍しくない。

世間がたった推定77名の生き残りを快く迎え入れるかと言えば、それは夢物語に過ぎないのだ。

そんな胸くそ悪い話が、時折挟まれていく。あり得ない話でもないというのが、これまた憎い。

 

本作のオチはかなり衝撃的だった。何というか……絶対に活躍しようがない奴が、「そこで出てくるんかいっ!」という場面で登場し、「救ってくれたんだろうけど……」という少しばかり複雑な感情を抱いたのは、おそらく自分だけではないはずだ。作品内の登場人物達も、そんな困惑を口にしている。

まぁ、そんなのは結末だけでなく、読んでいれば常にそんな場面ばかりだったりする。読んでいて飽きることなく読み進められた。発想力に感嘆してしまう、そんな面白い作品でした。

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