工大生のメモ帳

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【映画】8番出口 感想

※ネタバレをしないように書いています。

"異変"を見逃さないこと

情報

監督・脚本:川村元気

主演:二宮和也、河内大和、小松菜奈

ざっくりあらすじ

仕事先に向かっている途中に、「異変を見つけたら引き返さないといけない」無限ループの地下道に迷い込んでしまった男は、8番出口を目指して歩き続ける。しかし何度も異変を見逃してしまい……

感想などなど

本作は同名のゲームが元となって映画化されている。ちなみにブログ主はプレイしたことはなく、ゲーム実況を何個か見たことがあるくらいである。とはいえゲーム自体にストーリーらしいストーリーは一切無く、さらには一人称視点であるが故に主人公の姿も描かれず、ましてやゲームのルール説明は、壁にある「ご案内」に書かれている数行のみ。

異変を見逃さないこと

異変を見つけたら、すぐに引き返すこと

異変が見つからなかったら、引き返さないこと

8番出口から外に出ること

いわゆる異変という名の間違いを探す「間違い探しゲーム」であり、その異変の演出の中にホラーチックなものがあるため、ホラーゲームとしてジャンル分けされる。この8番出口を皮切りに、8番出口ライクのゲームが大量に出てきたが、そのどれも物足りなさを感じるくらいに完成されたゲームといえる。

そんな伝説的なゲームが映画化されるに当たり、多くの人は疑問に感じたはずだ。「あのゲームにはストーリー性なんてなかったぞ?」と。

かつてゲーム『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』という同様にストーリー性のないホラーゲームが映画化されたが、こちらは海外で考察が盛んに行われてシリーズ展開されていたため、映画化されるような基板が出来上がっていたらしい。映画のストーリーでも考察された内容が盛り込まれていたりと、ファンにとってはたまらない作品だったようだ(ブログ主は良く分からなかった。申し訳ない)。

さて、ブログ主が知る限り、ゲーム『8番出口』の考察はされていない。あくまで評価されたのは、その類い希なゲーム性や空気感であり、それを映画という媒体に落とし込むとどうなるのかという疑問を解消すべく映画館へ向かった。

結論から言うと、とても良い映画だった。

何よりも評価したいのは演出や音である。ブログ主は追加でお金を払って音質が良い方で視聴したので、音の良さを強く感じられた。駅の地下道という閉鎖空間を歩く音や、ループが始まったことを示す不穏でシステムチックな音も、とても印象的に描かれている。それらがホラー的な演出と噛み合って、様々な感情が沸き起こる。

ゲームにはストーリーも印象に残るものとなっている。

 

この映画におけるストーリーの柱を担っているのは父性だと思う。

冒頭において電車に揺られながら仕事に向かっていた二宮和也演じる主人公の男は、別れたはずの彼女から妊娠したことを電話で告げられる。その電話に耳を傾けながら覚束ない足取りで職場に向かい、しかし妊娠したという彼女のいる病院へ行くべきか悩み、前ではなく下を見ながら進むシーンが続き、気付けば8番出口という無限ループに脚を踏み入れていた。

主人公の男は父親がいない。そのため自分が父親になれるかどうか、ずっと不安に感じていた。そんな彼は冒頭における電話のシーン――彼女から妊娠したことを告げられるより前に、『泣きじゃくる赤ん坊をあやす母親を怒鳴りつける男』を目撃する。ここで大事なのは、あくまで目撃しただけで助けようとはせず、無視をしたという点である。

彼はそのことに罪悪感を抱えて、自分は父親になってはいけないと結論づけていた。だからこそ妊娠したという彼女の元に向かうことを躊躇い、彼女にどうするか聞かれても何も答えられなかった。子供には父親が必要という一般的な価値観と、自分は父親になってはいけないという結論が鬩ぎ合い、悩んでいる状態で無限ループに突入してしまう訳だ。

さて、そんな彼は地下道にて "異変" に遭遇する。

ゲームにおける異変は明確に、通常な状態とは違う間違いのことを指していた。しかし現実と陸続きな映画で描かれる世界における "異変" は、日常に干渉するような形で現れる。

現実では絶対に来るはずのない電話……いや、現実で聞きたかった言葉が "異変" として突き付けられた時の絶望は、是非とも映画で見て体感して欲しい。外から見ている視聴者の立場からしても、「異変か?」という疑惑を抱きつつ見ていると、異変として突き付けられてしまう。

この辺り、ゲームのシステムがストーリーと噛み合った展開として見応えがある。

ストーリーのないゲームのシステムをストーリーに上手く組み込んだ良い映画だった。