※ネタバレをしないように書いています。
”普通”を教えて
情報
作者:田中ロミオ
イラスト:mebae
ざっくりあらすじ
妄想を辞め、無事に高校デビューを果たしたつもりの佐藤一郎であったが、夜の学校で青いローブを纏った美少女との出会ったことで、彼の生活は一変する。
感想などなど
一言で本作の感想を言うならば、めちゃくちゃだった。しかし、それは個人的に心地よいめちゃくちゃであった。
厨二病御用達の単語というものを一つ、二つ想像してもらいたい。このブログを見に来たということは、少なからずラノベを嗜むのだろう。二つと言わず、十でも二十でも思いつくのではないだろうか。
思いつかないという方も、ふとタイトルを見てみれば『魔竜院光牙』という厨二病的作品でしかお目にかかれないような単語が飛び込んでくる。タイトルだけを見た人は、まさか本作が学園ラブコメだとは想像できまい。
冒頭からして、魔竜院と聖騎士が戦っているシーンが描かれていく。技術を持って命を刈り取る長剣と、圧倒的破壊力を持って技術ごと粉砕せしめんとする斧の闘いというのは、こうラノベを嗜む者としては心惹かれるものがある。
しかし本作は学園ラブコメである。それを忘れてはいけない。
厨二という言葉を最初に述べたのには理由がある。本作では想像を遥かに超える厨二単語が飛び交うからだ。もったいぶらずに本作の細かなあらすじを説明すると、
『青いローブを着て、魔術を操ることができる不登校・佐藤良子と共に、元の世界に戻るために必要な、竜端子という願いを叶えるとされるアイテムを探し求める』
という話である。ちなみに魔術を操るというのは自称であり、青いローブは制服を義務付けられた学内でも着用し続けている。「魔術により佐藤良子の姿は周囲に見えていない」という設定になっているが、残念なことにみんな彼女の奇抜な恰好に興味津々であった。
彼女のセリフには何か一つでも日常では利用しないような単語を交えなければいけないという制約でもあるのだろう。同級生たちは現象界人であり、リサーチャーという謎存在の許可なしには行動はできず、いつの間にか佐藤一郎は特別な力を持った某となっている。
そんな彼と彼女を見る世間の目は冷たい。
そんな怪電波を放出するのは彼女だけではないというのが、本作をめちゃくちゃたらしめる要因である。恐ろしいことにクラスの半分が、そんな怪電波の住民であった。一生に一度、出会うか出会わないかの異世界人がこれほどまでに集められた空間があるだろうか? いや、ない。
読み進めていくと普通というものが分からなくなっていく。主人公である佐藤一郎は、そんな厨二病設定を吐く面々と、普通に会話……いや、成立していないのか? あれ、どうなんだろう。
佐藤良子と共に、ときには警察に追われながら、またあるときには組み合って喧嘩もしならが竜端子というものを探していく。心の中では散々言いながら、ツンデレは嫌いとか言いながら、二人の仲というのは何だかんだで悪くない。
しかし厨二病で彩られた良子の外の世界の住民たち、彼女の言葉を借りるならば現象界人は優しくない。
学校に制服ではなく青いローブを身にまとっている姿は目障りで納得がいかない(正論である)。話をしようと思って話しかけたとしても、彼女の設定に基づくと現象界人には私の姿は見えてないという論法で答えてくれないのはウザい(まぁ、そうかもね)。話をしたかと思えば意味が分からなくてキモイ(……うん)。
結論から言ってしまおう。いじめが起きた。
厨二世界で生きているつもりでも、現実というものはしつこく付きまとってくる。魔法を唱えたところで、科学はそれを否定する。制服を着るというルールから逸脱すれば、学校からつま弾きにするだけの大義名分になる。
佐藤良子は腹話術や物まねやコスプレが上手いかもしれないが、そういった環境から身を守る意思があまりに希薄であった。靴を隠されるというテンプレいじめや、トイレに閉じ込められて上から色々と投げ込まれるなどのキツイいじめに至るまで、その過程はかなり壮絶だ。
それでも彼女は厨二病を辞めることはなかった。いつまでも周囲の人々は現象界人であり続け、竜端子だって探し求め続けた。もはやそれは一種の狂気だ。竜端子を見つけたとして、その先に何がある?
その答えは本作を読んで確認して欲しい。
まさしくタイトルに嘘偽りはなく、魔竜院光牙にとっての最後の闘いである。