※ネタバレをしないように書いています。
※これまでのネタバレを含みます。
負けたくないから
情報
作者:夏海公司
イラスト:Ixy
ざっくりあらすじ
日本のIT業界全てを巻き込んだ問題へと発展していく提案業務。次郎丸も梅林もその膨れ上がっていく話に協力するが、それほど簡単にひっくり返せるような状況ではなくなっていく。
感想などなど
提案業務というのは、提案を行う対象の企業が「どのようなものを求めているのか」を考えていくことが必要となってくる。そのための材料としてQ&Aがあり、ITに関する知識というものも必須であり、相手とのコミュニケーションを密にすることが求められる。
またそれに加え、業界全体の現状と今後を鑑みる必要があるということは、よく考えなくとも当たり前であった。しかし作品として、工兵の視点を通して見ることしかできない読者は、その観点というものを見逃していた。
立華という最強のエンジニアが立ち塞がり、他ではとても太刀打ちできないような最安値を叩き出したという現実もさらに追い打ちを掛けてくる。
何を言っているのか分からない、そんな方に向けて改めて現状を説明する。
まずインフラを整備するに辺り、工兵達が考えたのはプライベートSDNサービスを導入するプランであった。しかもプライベートSDNを導入では、国内最王手のJT&Wanimaの協力を取り付けたことにより、可能な限りの最安値を実現。
これは勝ったな(フラグ)。
しかし、それを遙かに上回る最安値を立華達は叩き出していく。それは彼女がこれまで培ってきた技術力によって実現されたサービスであり、他のそこらに居る適当な技術者では、とても再現できるような代物ではなかったのだ。
これは駄目だな……。
そこに追い打ちを掛けるように、貝塚悠里という第三勢力によりプライベートSDNが横取りされてしまうのが、第十六巻の冒頭部分だ。ただでさえピンチだった状況で、さらにピンチが積み重なるという泣きっ面に蜂状態である。
ちなみに貝塚がプライベートSDNを横取りした理由は『この案件を成功させないため』。正確には多くの企業が関わるインフラ整備において、大成功を収めるという前例を作らせたくないのだ。
もう少し噛み砕いて説明しよう。
まず貝塚のいる企業を含めた複数の会社で、今後金融業界全体を巻き込んだシステムインフラの構築を行っていくことになっている。現在はあくまで計画段階であるということがポイントだ。
工兵達の今行っている提案は、複数の企業を巻き込んだシステムインフラである。貝塚達の行っている構築とは規模の桁が違うが、それでも結果としてやっていることは同じになる。
そこで工兵達の考え出したシステムインフラが成功を収めてしまうと、金融業界もその成功例に乗っかってしまう。今現在、計画しているシステムインフラが使えなくなってしまう。
それでは不味い。あくまで貝塚達が考えているシステムに乗っかって欲しい。だからこそ工兵達の妨害を行った。
……酷い話だとは思うが、力関係がはっきりしている場合には良くある話であるような気がする。
上記の説明は省いている箇所もあるので、詳しくは作品を読んで理解して欲しい。
これまで書いた説明が身も蓋もなくなってしまうが、一言で言ってしまえば『上からの圧力』によりプライベートSDNが使えなくなってしまった。となると新たな作戦を立てなければいけないが、そのためには時間も経費も足りない。
行き詰まった工兵は、基本に立ち返ることにした。冒頭に書いたように、
『提案を行う対象の企業が「どのようなものを求めているのか」』
という大前提に。
……今、我々は普通にネットを使っている。こうしてブログを書いているのは、ネット上にある「はてなブログ」というサービスを経由して行っている。この記事を読んでいるあなたも、ネット上の検索か何かで来てくれたのだろう(今後も本ブログをよろしく)。
ではネットがこれほどまで爆発的に広がった理由というのは何故なのだろう?
その答えは本作に書かれている標準化されたから、だ。情報系の人間にとって、標準化というのは聞き馴染みのある単語であるが、一般人にとってはそうでもないだろう。
簡単に言ってしまうと、「どのように情報のやり取りをしているのか?」という具体的な仕組みを知らずとも、利用できるようにすることを標準化という。
……え? 何故この話をしたかって?
……うぅむ。この話を聞いた瞬間、工兵の脳裏に電流が走り、現状を打開するための妙案が思いついたのだが、皆さんは思いつかないだろうか? まぁ、普通は思いつかないよなぁ……。
仕事というのは結局、人とのコミュニケーションがなければ成立しない。コミュ力が就活で重視されているのは、なければ仕事で苦労するからに他ならない。
工兵はSEだが、色々な業務に携わってきた。提案業務からシステム構築に、常駐業務、営業紛いのことまでしたことは記憶に新しい。新人の教育もつい最近は行っていた。
それら全ての経験が、発揮されていく第十六巻はシリーズの締めとして相応しい業務だった。ライバルだった面々が手を取り合って協力していくのは、読んでいて心地良い。
シリーズを通して、普通に勉強になることも多かった。何だろう、自分も仕事ができるような気になってくる。現実は無能も良いところだが……悲しい。
仕事でやりがい搾取をするな、という言葉が良く聞かれる。ブログ主もそう思う。しかし、仕事にやりがいがなければ続かないのも事実。その辺りの折り合いをつけることの上手い人間が、この先も幸せに生きていくような気がする。
最後まで読んで良かった、十六巻という決して短くないシリーズであったが、心の底からそう思う。どうかいつかアニメ化も……。