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【漫画】SPY×FAMILY10 感想

【前:第九巻】【第一巻】【次:第十一巻】

※ネタバレをしないように書いています。

それぞれ秘密を抱えてる

情報

作者:遠藤達哉

試し読み:SPY×FAMILY 10

ざっくりあらすじ

幼き日の■■■■は両親と平和に暮らしていた……が、それは戦争をきっかけにして一変する。ロイド・フォージャーの過去が語られる……!

感想などなど

ロイド・フォージャーは偽名である。

これまでの(表面上は)平和な日常を読んでいると、ロイドはロイドであるというように考えてしまう。ロイドは凄腕のスパイであり、本当の名前は明かされていないという事実をふと忘れてしまってはいないだろうか。

スパイになるということは過去の一切を捨てるということを意味する。捨てきれなかった者から死んでいくのがスパイという職業であるというのは、これまでのエピソードを読んでいる者ならば心に刻まれていることだろう。

そんな過去を捨てた男・ロイドにだって、両親がいて、アーニャと同じ年齢だった子供時代があるはずだ。そしてそんな幼い頃からスパイを志していたという訳ではないだろう。なにかしらスパイに憧れるようになった……いや、スパイにならざるを得なかったきっかけのようなものがあることは想像に難くない。

この第十巻ではそのきっかけが描かれていく。

これまで幾度となく描かれたロイドが抱えるスパイとしての矜持は、子供が泣かない世界を目指すという覚悟は、それ相応の事件によって形作られたことが分かる……そんな第十巻となっている。

 

「でも東国人ってツノが生えてるアクマなんでしょ?」

■■■■がコロッケを売っている気前のいいおばさんにかけた言葉である。■■■■は西国人で、東国の人々はそういう人だと聞いたようだ。この刷り込みは、少年たちの将来の夢を軍人に駆り立てるには十分な動機になる。

アクマと戦う軍人はヒーローであるというような価値観が、どこかあったのではないだろうか。それでも大人たちは「戦争なんて起きない」と口をそろえて言う。そんな彼らは一体何が分かっていたのか。何を見てそんなことを言っていたのか。

戦争は街が突如爆破されるという形で勃発する。少年は数日にして友人と両親を失った。彼が銃を片手に戦場へと向かうには、十分すぎる理由となる。■■■■は優秀な軍人であった。そんな彼にスパイのスカウトがやってくるのは、そう遅くはなかった。

そんな血みどろな回想が終わって、現在の幸せな家庭とのギャップに、心が締め付けられる。アーニャの可愛さに救われるたのは、読者も一緒である。ロイドと読者の心境がシンクロするエピソードであった。

 

後半はロイドはお休みし、ロイド以外のスパイが頑張っている話である。たまにはコードネーム《黄昏》を休ませてやろうという優しさである。良い上司だなぁ……思わず涙が零れるなぁ……(過去から目を背けつつ)。

アーニャはアーニャで頑張っている。何を、と聞かれれば困ってしまうし、吐く言葉の全てが浅い彼女に多くを求めてはいけない。小学生にそんな大層な役割を求めることが間違っているが、彼女の行動に国家の存続が懸かっているというのは事実なので頑張ってもらうしかないという実情。ロイドの胃痛は今後も解消しそうにない。

ロイドと心境がシンクロする巻であった。

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