工大生のメモ帳

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イリヤの空、UFOの夏 その4 感想

※ネタバレをしないように書いています。

※これまでのネタバレを含みます(一巻の感想はこちら→イリヤの空、UFOの夏 その1 感想 - 工大生のメモ帳

世界の命運。絶望。夏の終わり。

情報

作者:秋山瑞人

イラスト:駒都えーじ

ざっくりあらすじ

伊里野と一緒に逃げ出した浅羽。二人の前にはかすかな幸せと大きな困難が待ち受けていた。次第に壊れていく伊里野を連れて、疲弊した浅羽がたどり着く場所とは。

そして榎本によって語られていく、全ての真実。伊里野は軍隊に帰り、浅羽に平穏な日常が戻った・・・・・・しかし・・・・・・。

感想などなど

自分の体に仕掛けられた発信器を自分の力で抉り出し、伊里野と街を飛び出した第三巻。少女と少年の逃避行が始まっていきます。

もう何度も書いていますが、少年は非力で平凡な中学生。対して伊里野はただの女子中学生ではない。世界ために闘う女子中学生だ。

これぞセカイ系の醍醐味なのではないでしょうか。非力な主人公と世界の命運を握るヒロインの逃避行。展開としては王道かもしれませんが、面白いからこそ王道なのです。

さて当然、平凡なハイキングのように逃避行ができるはずもありません。追いかけてくる敵は国を、世界を守るために闘う軍隊です。

いや、ただ軍隊だけというわけではありませんでした。浅羽と伊里野は指名手配されているので、戦争状態で追い詰められた街の人々全員が敵となります。

敵も味方も分からないまま、ひたすら必死に逃げ続ける二人。

困難はそれだけではない。今までの伊里野の日常を思い出して欲しい。

・・・・・・度々鼻血を出していた。一巻冒頭バッグに大量に詰め込まれた薬を覚えているだろうか。しかし今は逃避行の身。薬なんて持っていない。

時間が経てば経つほど、肉体的にも精神的にも疲弊していく。余裕がなくなっていく。彼女の些細な言葉に苛立ちを覚える。そして、

「もう二度とその面を見せるな!」

そんな一言で彼女は壊れた。起こったのは記憶の退校。

 

逃げ続けていく中で、記憶の退校はどんどん進んでいく。ボウリングも文化祭も過ぎ、映画館のデートの当日にまで彼女の時間は巻き戻り、浅羽のことを待ち続けていた。浅羽は目の前にいるのに。今日はデートの日ではないのに。

浅羽は何度も語りかける。

自分が浅羽だと言っても分かってくれない。浅羽は来ないと言っても「来る!」と言って聞かない。

さらに巻き戻る。日にちを聞いてみれば夏休み最後の日。浅羽が夜のプールに忍び込んだ日だった。

彼女は明日学校に行くんだと言った。行きたくなかったけれど、行くことに決めたのだと。

何故? と浅羽は訊ねる。

彼女の返答で自分は感動で、全身に鳥肌が立った。ここでこれまでの平凡な日常が生きてくる。彼女が行きたくないと言っていたのに、行こうと思った理由がそこにはあったて、たった一言で説明された。他でもない伊里野の純粋な言葉で。

 

そこでもう終わりで良いだろうと思うくらい感動してしまったが、まだまだ終わりではない。榎本さんの御説明がある。それはここでは書き切れないし、詠んで確認して貰いたいので、省略させていただこう。

榎本さんに会ってしまえば、逃避行はおしまいだ。伊里野は軍に連れて行かれる。彼は自分なりに納得して、彼女を送り出し、自分は日常に戻った。

しかし物語は、夏はそこで終わりでない。

再び決断に迫られる。

世界か、彼女か。

一度は諦めた彼女がそこにいて、自分の言葉一つで世界と彼女の命運が決まってしまう。漂う緊張感。思わず唾を飲み込む。

 

素直に美しいラストだなと思った。セカイ系の作品として完成され過ぎていると思うほどに、傑作だと思う。