※ネタバレをしないように書いています。
ちょっとだけSF
情報
脚本:野木亜紀子
監督:村尾嘉昭、山内大典
主演:大泉洋、宮﨑あおい
全9話
ざっくりあらすじ
人生が詰んだ元サラリーマン・文太は、半ば諦めた気持ちで面接を受けた「ノナマーレ」の最終面接まで進むこととなる。そこでEカプセルという超能力を開花させるカプセルを飲まされ文太は、ちょっとだけエスパーとなりミッションを遂行していくこととなる。
感想などなど
このドラマは一話進むごとに印象が大きく変わっていく。
最初は「ちょっとだけ世界を救う」明るく痛快なSFだった。ノナマーレという会社に入り、人生を諦めていた男が前を向けるようになっていくという大筋のストーリーに、ちょびっとだけエスパーというSFが添えられている。そんな感じでSFとしての色は薄味に感じていた。
しかし、どうだろう。
話が進むごとに、そんな明るく痛快SFドラマという印象というのが移り変わっていくのだ。
第一話。ざっくりあらすじにも書いたように、文太はノナマーレという会社に入社して "ちょっとだけ" エスパーになる。その能力の内容は、触れた相手の心が読めるというもの。あくまで触れないと心は読めないし、ドラマを見て貰えば分かるが「心を読みたい相手に触れる」というのは第三者の目線から見るとかなり変だったりする。
そんな文太はノナマーレが用意した社宅にて、四季という女性の夫として彼女と同棲生活を送ることとなる。かなり混乱する展開だが、どうやら四季の本当の夫は事故で死亡しており、そのショックで混乱して記憶が混濁しているらしい。いつ自ら命を絶ってもおかしくなかった彼女を救うため、文太が夫の役を演じて彼女を助けさせる……というのがノナマーレの意図であるらしい。
とにかく文太は、自分のことを夫だと思っている四季と一緒に過ごしていくこととなる。この四季が明るく天真爛漫、夫を健気に思う愛情深く魅力的な女性なのであって、文太は望まぬうちに彼女からの深い愛情を向けられることとなる訳だ。
ここで生きてくるのがノナマーレの社訓――『人を愛してはならない』である。
そもそもどうしてそんな社訓なのか?
作中において社長は、「世界を救うヒーローにとって、愛は邪魔になる」といったことを言っている。最終話まで見た後で、社長の愛に対する向き合い方というものを考えて見ると感慨深い。おそらく彼にとって、愛は世界よりも優先されるものだった。だからこそ、「世界を救う」ために行動してほしい社員には、「愛すること」を止める必要性を感じていたのだ。
さて、説明が後回しになってしまったが、これまで何度も「世界を救う」というフレーズが登場させている。そもそも文太が入社したノナマーレの業務内容は、毎日のように携帯に届くミッションを遂行することだ。ミッションの内容としては、「○○さんに一日傘を持たせる」や「▲▲さんの携帯の充電を0%にする」といったような些細な内容である。
何のためにしているのか一見すると意味が分からないが、それら全てが巡り巡って、未来で誰かを救っていて、それらが全て繋がって世界は救われている……これがノナマーレ社員の仕事であり、「世界を救っている」ということがモチベーションとなっていた。
四季という女性から愛されながらの生活、自分の行動がいつかどこかで世界を救っているということ……これまで必要とされていなかった自分が誰かに必要とされているというノナマーレが用意した環境が、どある事情によって自殺を考えていた文太の生きる意味となっていく。
なんと明るい物語であることか! しかし、それらが徐々に歪んでいく。
このドラマは何よりも脚本が最高だったと思う。脚本家である野木亜紀子さんは名作ドラマ『アンナチュラル』も手がけていたことを踏まえると納得の出来ではあるのだが、それにしたって現代ドラマとSF設定が見事に調和した脚本は、やはり最高と言わざるを得ない。
SF作品というのは設定の出し方が、面白さの鍵になると思う。
出し方と一言で言っても、そもそもの設定の作り込みから始まり、それぞれの情報を実写ドラマという媒体でどのように描き出すかといった演出、どの順番で出していくかという脚本の妙、SFだからこそ出てくる用語など考えることは多岐にわたると思う。
それらが本ドラマは完璧だったのではないだろうか。
例えば。
一話ごとに明かされていく設定のスケール感がゆっくりと大きくなっている。徐々に慣らしていくという訳ではないが、第一話から第二話の冒頭にかけては、SFではよく出てくる世界線の話が語られる。世界線について説明しようとすると長くなるので、気になる方はとにかく本ドラマを視聴してほしい。
SF作品では良く出てくる用語『世界線』だが、ちゃんと調べてみると意外に難しい。しかし実写ドラマでは、直感的に世界線がどういったものかが理解できるように描かれている。世界線について深く理解せずとも、何となく分かる。
この "何となく分かる" が個人的には結構凄いことだと思う。
本ドラマにおいて、現代にはないはずの技術というものが登場する。しかし、それらを説明するための固有名は存在しない。本ドラマ固有の用語といえば、ノナマーレという会社名と、超能力を発現させる薬・Eカプセルくらいではないだろうか。つまりSFに対する敷居が高くなる原因である奇怪な横文字はほとんどないのだ。
それなのに何となく分かる。
SFとしての設定が深掘りされていくが、それでも混乱することなく追いつける。それなのに物語の謎は散りばめられつつ、後になって回収されていく。社会から爪弾きにされた人達の社会的なテーマも取扱ながら、時間を扱うSFで巨大な壁として立ち塞がるパラドックスの問題などにも真っ向から立ち向かっていく。
見れば見るほど味がするドラマだった。