工大生のメモ帳

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【映画】チェンソーマン レゼ篇 感想

※ネタバレをしないように書いています。

炸裂する少年と少女の夏

情報

原作:藤本タツキ

監督:𠮷原達矢

脚本:瀬古浩司

声優:戸谷菊之介、楠木ともり、坂田将吾、上田麗奈

ざっくりあらすじ

チェンソーの悪魔を心臓に宿して「チェンソーマン」となった少年・デンジは、公安のデビルハンターとして、マキマさんとデートしたりと幸せな生活を送っていた。そんな中、突然の雨に降られて雨宿りしていると、謎の少女・レゼと出会う。

感想などなど

大前提として、同名の漫画『チェンソーマン』において大人気エピソードであるレゼ篇が映画化されたのが本作だ。

レゼ篇に至るより前に、ゾンビの悪魔と殺し合って一度死んで、チェンソーの悪魔が心臓になったプロローグや、早川アキとの金玉潰し合いや、ソードマンとの死闘やらがアニメ化されている。本劇場版を見るならば、それらのアニメ、もしくは漫画を読む必要がある。

それらの知識がなければ「銃の悪魔?」「チェンソーの悪魔?」「マキマさん?」という状態になって映画を楽しむどころではないと思われる。取り急ぎ、見ていない方はそれらを目を通すようにして欲しい。

……見ましたかね?

さて、レゼ篇というのはその名が冠している通り、レゼという美少女と出会ってからの一連のエピソードを指す。個人的に『チェンソーマン』において一番好きなエピソードであり、アニメ化したら映えるベストバウトだと思っていた。アニメ化は世間的に失敗と評されている本作であるが、「レゼ篇は何が何でもアニメ化しろ!」と声髙に叫んでいた過激派はブログ主以外にもいたはずである。

だからこそアニメ化は念願であったし、しかも映画化と言われれば胸が躍って仕方がなかった。そんな1ファンの期待値を大幅に超えていく完成度の作品に仕上がっていたのだから、感動かなりのものだった。いざ観てみれば、レゼという少女が持つ抗えない可愛さが映像化され、しかも上田麗奈の声が乗ることによる破壊力は凄まじかった。

そんな本映画の魅力を語りたい。

 

何よりも本映画で感動したのはレゼという少女の映像化である。漫画という媒体で描かれていたレゼが動いているという時点で感動なのだが、上田麗奈によって声が付くことで感動はさらに増す。

レゼとデンジとの出会いは、電話ボックスで雨宿りというシチュエーションである。しっとりと雨に濡れたレゼの妙に近い距離感。快活さと可愛らしさが両立した笑い方。その全てが男を勘違いさせる。デンジの「俺のこと絶対好きじゃん」という心の声に頷きざるを得ない。ごめん、ブログ主も単純な男で。

そんなレゼとの王道のようで何処かズレた青春模様――夜の学校への侵入、プールへの飛び込み――などは甘美でありながら、時折の演出やカットがレゼの危険性と、二人のこれから先の展開を予感させる。

二人で一緒に行った夏祭り、バイト先の喫茶店のマスターから聞いたという秘密の場所から見える花火の炸裂する様を背景に、二人の関係の全てがひっくり返る。レゼとデンジのキスシーンは、心の底からアニメで良かったと思う。もしも実写であったら見ていられなかった。

ここから先、繰り広げられるバトルは血なまぐささと格好良さが両立している。

 

これまで色々な悪魔と戦いを繰り広げてきたが、本映画で敵として立ち塞がるボムの悪魔は、その能力が実に画として映える。ボム、つまりは爆発を利用しての瞬間移動や、爆発して頭と身体を切り離し、頭を投擲しての爆弾として利用する離れ業など、その全てが悪魔らしい殺戮である。

特に素晴らしかったのは、チェンソーマン & ビーム(=サメの魔人) VS ボムの魔人 & 台風の悪魔というタッグバトル。怪獣バトルというフレーズがぴったりの建物という建物が崩れ去って、街一つが壊滅しながらの戦闘シーンは圧巻。ビームがビルの壁を縦横無尽に駆け、ボムの魔人が建物から何から何までも破壊しながら追従、それを支援するように台風の悪魔による猛攻が、そこら中を破壊していく。

瞬きした瞬間に戦況はぐちゃぐちゃになっていく様は是非とも映画館で堪能してほしい。そんな戦闘のラスト、デンジとボムの悪魔の決着は一生忘れないと思う。プールのシーンを想い出すようなカットに台詞、殺し合いをしていたはずの両者が見せるとは思えない美しさは、このレゼ篇を象徴していると勝手に決めた。

そんな決着後のエピローグは、これから先の『チェンソーマン』を続けるためには必要なものだった。

しかしながら、この映画のその後、つまりはレゼ篇のIFを描いたファンアートがX(旧Twitter)には溢れているのは、『チェンソーマン』というデンジが幸せを掴もう足掻く物語において、理想的な幸せに最も近づいた瞬間だったからなのではと思う。

デンジはレゼ篇において、最善を尽くした。それでも掴めなかった幸せが最も美しかった。最高の映像化でした。