工大生のメモ帳

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うさぎ強盗には死んでもらう 感想

【作品リスト】

※ネタバレをしないように書いています。

全ては気紛れ

情報

作者:橘マユ

イラスト:米山舞

ざっくりあらすじ

京都左京区のマンションで空き巣に入った泥棒カップルは痴話喧嘩。向かいの屋上の青年は殺人を強要されていた。うさぎ強盗はその時――。

感想などなど

あまり他作者の作品の名前を上げたくはないのだが、この作品を読んでいて思い浮かんでしまったシリーズがある。伊坂幸太郎著『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX』と続く、数多の殺し屋による群像劇を描いた殺し屋シリーズである。

思い浮かんだ理由としては二つ。

一つは伊坂幸太郎作品の特徴である、ちりばめられた伏線が一気に回収されていくストーリー構成が本作では色濃くなっているため。最序盤のエピソードが、最終盤になって意味を持ってくるというのは、好きな人は好きな構成だろう。無論、ブログ主も大好物だ。

二つは――主な要因はこちらだろう――本作は『殺し屋シリーズ』のように殺し屋がたくさん登場して、それらの群像劇となっているという構成がとられているため。それぞれが個性的な特徴を持ち、いわゆる一風変わった殺し屋が活躍する。

しかし、殺し屋シリーズとは大きく一線を画す点が一つある。

それはストーリーの複雑さ、だ。

 

海外作品が読まれにくい要因の一つに、名前があまりに馴染みがなさ過ぎて覚えられないというのがあるように、ストーリーを理解する上で、キャラクターの名前というものはとても重要になってくる。

さて、本作では一人の人物が複数の名前を持っていることが多々ある。その理由は様々で、『過去を隠すために名前を変えざるを得なかった』ために複数の名前を持つことになってしまった者や、『海外と日本で名乗る名前が違う』という変な人もいれば、『仕事上でのハンドルネーム』が知れ渡りすぎて、ほぼそれで呼ばれているため本名があまり出てこない人もいる。他には『独自ルールで兄さん呼びする相手が複数いる』変な奴のせいで、「お前にとっての兄さんは何人いるんだよ!」という状況になって頭がパンクしそうになることも珍しくない。

となると話し方で人を識別しようとするはずだ。しかし、そこにも罠がある。よくオンとオフの切り替えが激しい人がいるだろう。今と過去では話し方が変わっている人もいるだろう。好きな相手が前だと、こう色々と変わってしまう人もいるだろう。もう識別は諦めて、波に揉まれてしまえ。

描かれる話は時系列がごちゃ混ぜになっている。大きく分けると、『M&Dグループと殺し屋達の抗争?』が行われている現代と、『伝説の殺し屋が死んでからのゴタゴタ』が発生している過去と、『伝説の殺し屋が生きている頃』の大過去といったように分類できる。

……と単純に書いたが、それぞれの過去話も過去のような今のような絶妙なラインで描かれているため、時間を空けて読むと分からなくなることを約束しよう。

 

だとすれば何が魅力なのか?

章立てされた話のラスト、それぞれの引きが絶妙なのだ。「お前は○○だったのかよ!」「いや、死ぬんかーい」「生きてるんかーい」というような突っ込みを思わず入れてしまう。そして続きを読んでしまうという流れが何度も行われていく。

エンタメ色が強く、ラストの引き際も最高。エンタメ色がかなり強い群像劇であった。

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