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【漫画】まどろみバーメイド1 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

最高の一杯を求めて

情報

作者:早川パオ

試し読み:まどろみバーメイド 1巻

ざっくりあらすじ

屋台形式でカクテルを出してくれる店を運営する雪の物語。

「スコール」「クイーンオブスパイス」「ヴァーサス」「魔法のおまじない」「炎」「トリオ」「なみだのウィスキー」

感想などなど

オシャレなカクテルを出してくれる店に、恥ずかしながら行ったことがない。酒の知識はコンビニで買うような酒のレベルに留まっている。だからこそ、この作品で登場する数々の酒とそれにまつわるエピソードはどれも新鮮に映った。そういう自分のような知識レベルの人にはとても楽しめると思う。

それにバーテンダーといえば男性の姿を思い浮かべるかもしれないが、この作品で活躍するバーテンダーは見た目麗しい女性が多い。それでいて絵も上手いので、とても見やすい。安定感のある漫画だと思った。

 

「スコール」

スコールと聞いても、コンビニで売ってる緑色の缶の奴『愛のスコールホワイトサワー』しか知らない。割と好き。だが、このエピソードで描かれるものとは全く違うものなので注意して欲しい。

今回、雪は少しばかり酒に詳しいという男に『焼酎で何か作って欲しい』という注文を付けられる。感じが悪い嫌がらせのように思われるが、焼酎を使ったカクテルというのは確かにあるようだ。

そこで出されたカクテルが『村雨』。妖刀ではない。

村雨は急激に強く降り、そしてすぐやむ日本のスコール。それを体現するかのように、口に含んでスカッとくる切れ味が特徴的であるらしい。その持ち味を最大限に生かせるように雪が凝らした技術と知恵の数々がこの一話に詰め込まれている。

できるバーテンダーのこなす計算と知識量の膨大さは凄かった。掴みとしてはかなりいい話だったのではないだろうか。

 

「クイーンオブスパイス」

何事においても基本というものは大切である。基本を疎かにしては、その上の応用に進むことができないように。仕事の基本ができてこそ一人前と呼べるように。カクテル制作における基本は四つ。

配合。

振り。

注ぐ。

混ぜる。

この四つをきちんと押さえるシンプルなカクテル・ジンフィズ。それを頼むことで作った人のカクテルに込める想いや、年月を感じることができるのだという。 そんなジンフィズと同じくジンベースのカクテル・ジントニック。こちらも作り方はシンプルであり、作中の酒に詳しそうな人物が「シンプルな分、バーの傾向や癖のようなものを知りやすい」というように説明している。

そんなジントニックを、屋台のカクテルを営む雪はどのように作るのか? ほんの一手間で大きく変わるカクテルの奥深さを知ることができるエピソードである。

 

「ヴァーサス」

雪は騎帆と日代子の二人と同居生活を営んでいる。一緒に住んでいると喧嘩というものは避けて通れない。理由はきっと些細なものだった。騎帆と日代子は大喧嘩をしてしまった。そして家へ帰りにくくなったのであろう、二人ともが同じタイミングで雪のいるカクテル屋台に訪れ、再び喧嘩をすることとなる。

その喧嘩の仕方というのが、これまた面白い。実はこの騎帆と日代子の二人も、雪と同じくバーテンダーであり。相手に言いたいことにちなんだ名称のカクテルを作っては相手に呑ませるということを繰り返したのだ。

例えば。

「私みたいに熱ーーーいチューなんてしたことないでしょ!」と言いながら『キス オブ ファイヤー』を作り飲ませ、「どこでも盛ってるだけじゃないのか?」と言いながら『セックス オン ザ ビーチ』を作りのませ……というようにカクテルが出来ては飲まれ、出来ては飲まれを繰り返していく。

お陰様で出てくるわ、出てくるわ。名前も聞いたことのないようなカクテルの数々。酒が入ることで壊れていく理性と、盛り上がっていく感情。そんな二人をなだめつつ、感情を落ちつけるのもまた酒である。

野菜を使ったカクテルがあることすら知らなかった自分にとって、かなり新鮮に見えるエピソードであった。

 

「魔法のおまじない」

カクテルにとって香りは、とても重要な意味を持つらしい。コンビニとか居酒屋の酒を飲むとき、香りなんて意識したことのない自分にとって、それは新たな気づきであった。

これまでのエピソードでもカクテルを作る上での些細な工夫――混ぜ方、カップの形状など――を見てきた。そのどれよりも、今回の工夫は些細であった。何も知らない者からしてみれば、それは魔法のように見えるのだろう。

タネもしかけもないマジックのような驚きに満ちて、おまじないのような幻想的な姿にさえ見えた。バーテンダーのいるカクテルバーには、そんな美味しさと不思議を求めて行くのかもしれない。そんなことを思ってしまう洒落たエピソードであった。

 

「炎」

バーテンダーは1830年代のアメリカが起源とされ(諸説あり)、多くの人達が多種多様なカクテルのレシピを生み出し、今もなお進化を続けている。進化し続けているからといって、昔のカクテルが劣っているとかそういうことはなく、それぞれが作られた背景や歴史というものを持ち合わせている。

今回、振る舞われる卵を使った一風変わったホットカクテル『トム&ジェリー』にも歴史があった。

作ったのは ”バーテンダーのミケランジェロ” とまで呼ばれたジェリー・トーマスという天才である.若い頃からヨーロッパやアメリカを回り、様々なカクテルを記録し考案。四点ものバーを経営していた。

そんな男にも訪れる人生の転落期。それでも彼が作り上げたカクテルは未だ更生にまで語り継がれ愛されているのは、そのカクテルの素晴らしさに魅了されたからこそ。何か歴史に功績を残すことの素晴らしさ……それを美味しい酒とともに感じることができrエピソードであった。

 

「トリオ」

雪と騎帆と日代子、が居酒屋で暴れ回る話。

例えば。

飯を食いに来たはずがキッチンに立って酒を出し始める雪。仕事の虫かよ。

女子三人で飯を食いに来たはずがナンパに乗って男衆に加わった日代子。やっぱり尻軽じゃねぇか。

こうしてぼっちになった騎帆は一人でカクテルを作って過ごす……いや、普通なんだけどこの中だと普通じゃないのか……? 一癖も二癖もある面々の個性が分かりやすいエピソードであった。

 

「なみだのウィスキー」

バーテンダーは氷の一つにだってこだわっている。わざわざ面倒な手法を使って、溶けにくい氷を作っているのだという。どうやら氷が溶けて水になることで、カクテルの味を変えてしまわないようにするためであるらしい。

そんな細部にまでこだわるプロ意識が、上手いカクテルを作る秘訣なのだろう。

そんなプロでも再現できない味があった。

その日、屋台にやって来たのは、いつも美味しい水だけを飲みに来る優さん。山形の田舎から上京してきて、仕事もあまり上手くいかずに辛い日々を過ごしていた彼女が、どうしても飲みたい酒があるのだという。

死んだ山形の母が『なみだのウイスキー』と呼んでいた甘いウイスキー。それが飲みたいのだという、だが山形にはウイスキーの蒸留所はない。一番近いところで宮城県にある宮城峡蒸留所で、そこで作られた「シングルモルト宮城峡」だろうか……?

彼女の依頼に応えるべく、その酒を出すが答えは違った。答えを探すべく、彼女は山形に飛んだ……というシーンで一巻は終わっている。バーテンダーとしてのプライドと、彼女の笑顔を取り戻すためのバーテンダーとしての戦いの幕開けであろう。

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