※ネタバレをしないように書いています。
世界が美しく感じられる
情報
作者:時雨沢恵一
イラスト:黒星紅白
ざっくりあらすじ
喋られるモトラド(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す)エルメスと共に、世界を旅するキノの物語。
「人の痛みが分かる国」「多数決の国」「レールの上の三人の男」「コロシアム」「大人の国」「平和な国」
感想などなど
「キノの旅」はラノベなのか? と言う人もいるらしいですが、まぁ、そう思われても仕方のない作品なのかなと思います。
ジャンルとしてはSF? ファンタジー? ふぅーむ、悩ましい。
簡単な内容としては、様々な文化・歴史を持った都市もとい国を旅する短編形式の作品。詳しいことは、おそらく、きっと、多分、この先の自分の感想を読んで貰えれば、分かって貰える可能性があるかも知れませんが、保証できないということをご了承下さい。
「人の痛みが分かる国」
自分には他人の気持ちが分かりません。決してサイコパス的意味ではなく、「何を考えているのか」「何を思っているのか」その全てが正確には分からないという意味です。大半の人間が、口に出す言葉と同じ事を心の中で思っていないこともあるでしょう。嘘という言葉もあるくらいですし、やはり人の心は分かりません。
だからこそ、「あの人の気持ちを知りたい」「近づきたい」と思うのが、人の性。
この短編では『心で思ったことを周囲の人に伝えられる』ようになる進化を遂げた(薬で無理矢理ではありますが)国の行く末の物語です。
心に突き刺さる台詞の多い短編であり、「キノの旅」と聞いて思い浮かぶ国の一つなのではないでしょうか。
「多数決の国」
民主主義は素晴らしい。国の行く末を決めるのは、たった一人の権力者ではなく、国民の多数決によって決めるべきだ。そうだろう? 一人が力を持った結果、国がどうなるかは歴史が教えてくれている。革命によってたくさんの血が流れた過去の失敗を繰り返してはならないのだ。
多数決は素晴らしい。そう、国民の大多数が持つ意見こそが正しく、正義であり、それ以外の少数派は悪だ! 我々国民を守るためには少数派――過激派どもは殺さねばならない……。国民の権利を著しく害する存在は排除しなければいけない。
そうだろう? 我々は国民の主権を守らなければいけないのだ。これは ”正義” だ。
「レールの上の三人の男」
五十年……五十年だ。彼らの物語に終わりはない。物語としての起伏もなく、変わらない景色が続いていくのだろうか。
色々なことを考えさせられる、想像力を駆り立てられる物語だ。
「コロシアム」
さて、皆さんには素晴らしい国を舞台にした短編をご紹介したいと思います。
「コロシアム」なんて不穏なタイトルですが、ご安心下さい! この国は美しい風景と、そんな風景に育てられた心豊かな人々達が織りなす綺麗な物語なのです! この現代社会に揉みくちゃにされ荒んだ心にスッと染みこむ感覚……いいですねぇ。
綺麗な物語をお楽しみ下さい。
「大人の国」
「大人になるために手術をする国」にて、手術を間近に控えた少女視点の物語。そこにやってきたキノという一人の旅人に出会い、彼女の運命は大きく変わってしまった。
大人とはなんなのか。仕事を文句一つ言うことなくこなし、自分のしたいこと・好きなことを封じ込めることが大人と言うならば……あたなは大人になりたいだろうか。
少女は国の制度に疑問を抱く。些細な少女の疑問は、大人達の狂気をあぶり出す。いや、彼らにとっては ”それ” が普通だったのだろう。
子供の時とはまた違った感想を抱きました。自分も大人になってしまったんだなぁ……。自分は ”良い大人” になれたんでしょうか。良く分かりません。
「平和な国」
世界の歴史は戦争の歴史だと言われます。自分も歴史の授業で一体何個の戦争の名前を覚えさせられたことか。
戦争はしてはいけません。大半の人々がそう思っていると思います。しかし、だからといって戦争が起きないとは言えません。この短編で登場する国は、 ”仕方なく” 戦争をしているようです。
「平和じゃないやん!」と思われるでしょう。自分も思いました。しかし、 ”平和” の定義がおそらく違うのでしょう。彼らにとって ”自国の人々が死なない” 状態こそが平和なのです。
果たして、本当の平和とは何なのでしょうか。
個性的な国の数々を旅する物語……何となく雰囲気が分かって貰えたら嬉しいですが、読み返してみると伝わらないような気がしてきました。短編のネタバレをしないように書くって難しいですね。少しでも興味を持って貰えれば幸いです。