工大生のメモ帳

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【映画】サマータイムマシン・ブルース 感想

※ネタバレをしないように書いています。

タイムマシン×青春コメディ

情報

監督:本広克行

脚本:上田誠

ざっくりあらすじ

夏休み。大学のSF研究会の男子達がグラウンドで下手な野球をしている間、カメラ部の女子部員はSF研究部の奥にある暗室で作業をしていた。その裏ではタイムマシンを巡る事件が起きていた。

感想などなど

もしもタイムマシンが手に入ったとして、皆さんは何をするだろうか。

時間移動を題材としたSF作品はたくさんあるが、その中で最もスケールが小さい事件を描いているのが本作なのではないだろうか。なにせタイムマシンが出てくるSF作品の醍醐味であるはずの遠い未来や過去といった世界の様子は、全くもって描かれない。

タイムマシンを発見し時間移動することとなるSF研究会の学生達の時間旅行は、『壊れたエアコンのリモコンを壊れないようにしたい!』という些細で可愛らしいものにとどまっている。

タイムマシンというトンデモ機械を手に入れておきながら、物語のスケールは日常を飛び越えない。そんな映画の冒頭は、五人の学生(と一匹の犬)が下手っぴな野球をしているシーンに始まり、ダラダラとした夏休みの一日が十五分ほど続いていく。

この映画は105分の短めの尺だ。「ここから面白くなるのだろうか?」という疑問が脳裏をよぎった視聴者も多かったと思われる。「どういうこと?」というとある人物の台詞から、時間は遡ったり進んだりして、その日起きた出来事が明らかにされていく構成になっているのだが、そこから先は飽きさせることなくずっと面白い。

些細なシーン、気にしていなかったけれど思い返してみると確かにおかしいシーン……そういった伏線が詰め込まれた冒頭は、見返してみるととても面白い。一粒で二度美味しい映画を語っていきたい。

 

舞台は、とある大学のSFが何の略かを知っている人が一人もいないSF研究会……の隣に暗室を構えるカメラ部。先ほども書いたように、物語のプロローグとして、SF研の五人が野球に興じているところを、カメラ部のメンバーが撮影しているシーンから始まる。

(自称)若さ迸る青春の一幕である。SF研メンバー五人は野球の汗を流すために、近くにある銭湯へ。カメラ部の二人は、さきほど撮影した写真の現像を行っている。その賑やかなキャンパスライフは、若さ迸ると言っていいかもしれない。

しかしそんな日常の所々に、どこか違和感がある。

例えば。

SF研のメンバー五人は、銭湯を出るまではずっと一緒にいることとなる。それなのに ”SF研のメンバーが別の場所にも出現した” と考えなければ辻褄が合わないことが起きている。カメラ部の二人がSF研のメンバーに「あれ? 銭湯行ってたんじゃないの?」と話しかけていたり、知らないところでバイトをしていることになっていたり、弟が爆誕していたり……そうして細々とした矛盾が積み重なっていく。

結論から言ってしまえば、彼らは次の日にタイムマシンを発見して、『壊れたエアコンのリモコンを壊れないようにしたい!』という目的のために、前日にタイムトラベルすることで生み出された違和感だったのだ。

そんな設定を聞けば、本作のジャンルはSFであろうと多くの方が思うはずだ。しかし、本作はどちらかといえば『青春コメディ』としての側面の方が強いと個人的には思った。

何故ならば登場人物の全員が、『何故タイムマシンが突如として、SF研の部室に現れたのか?』という命題を大して気にしていない。そして、『タイムトラベルをすることによる弊害』――つまりはタイムパラドックスが起きる可能性を、SF研の顧問に指摘されるまで誰一人として気付いていなかった(SF研なのに、だ)。

針の穴に糸を通すが如く、綺麗に出来上がった矛盾のないストーリーが、誰の策略も混じることなく作り出されている。言ってしまえばご都合主義展開なのだが、そこに人の意思は感じられない。

時間の流れという絶対に逆らうことのできない舞台の上で紡がれる青春模様。そこに時間遡行というエッセンスを加えると、何でもコメディになるのかもしれない。

 

時間遡行のジャンルにおいて、媒体を制限せずたくさんの名作がある。あまり他作品の名前を出すのは恐縮だが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『STEINS;GATE』、『バタフライエフェクト』などなど。どれも完成度の高い脚本が評価される名作として語り継がれている。

どれも共通して時間の流れという存在が敵として立ち塞がる。如何にその敵の裏をかくかという頭脳戦のような展開が、大きな感動を生むのだ。しかし、本作『サマータイムマシン・ブルース』において、敵と呼べる存在は一人としていなかった。

無茶苦茶な結末を想像させる、先が読めない展開が続いていく中、その全てが繋がって一本の糸になる。時間というシステムによって作り出された神業に、人の意思は果たして介在できるのだろうか。

そういったSFチックな投げかけも、最後には感じられる。SF好きの人も、青春コメディ好きも、良いところが見つけられる良い映画だった。