工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

【映画】太陽を盗んだ男 感想

※ネタバレをしないように書いています。

死んだ人間を殺して何が悪い

情報

監督:長谷川和彦

脚本:長谷川和彦

ざっくりあらすじ

中学の理科教師・城戸誠は、授業の傍らで原子爆弾を完成させる。それを使い日本政府を脅迫したのだが……。

感想などなど

原子爆弾の作り方は検索すれば出てくるし、”素材の準備さえできれば” そして、”放射線を浴びても良いという覚悟があれば” さらに ”化学の知識があれば” 一般人でも作ることができるらしい。

”準備” ”覚悟” ”知識” この3つの壁を乗り越えることができればなどと、容易く記述してしまっているが、一国の軍隊ならばまだしも一般人に出来る芸当ではない。その難しさというのは、本作を見て貰えば分かる。いとも容易く計画通りに進めてしまっている沢田研二演じる城戸誠が異常なのだ。

そもそも原子爆弾を作ろうと思い至る人間が、この日本社会にどれほどいるか。子供の頃から唯一原爆を落とされた国という教育を受け、その恐ろしさというものを嫌というほどに学んできた。子供の頃に読んだ『はだしのゲン』はなんだかんだでトラウマである。

そんな原子爆弾を本気で作ろうと志し、挙げ句の果てには作ってしまう! 本作のポイントはその執念だ……といいたいところだが違うように思う。そんな驚異的な執念の生み出される動機が、全くもって理解できないという狂気の部分ではないだろうか。

本作のストーリーでは城戸誠の過去は一切描かれない。社会に対する不満があるのだろうか。社会に何かされたのだろうか。どうして原子爆弾を作ろうと思ったのかという意思が発露するまでの過程の一切が省略され、執念の部分にのみ焦点が当てられている。

原子爆弾を完成させ踊り出す城戸、その無気力な狂気に視聴者の心は奪われていく。原子爆弾を完成させた城戸は、原子爆弾を抱えて踊る。そのシーンは強く心に焼き付いて離れない。

 

原子爆弾を完成させるという大仕事を成し遂げた彼が次にしたことは、日本政府への脅迫であった。「原子爆弾を作った。爆破されたくなければ言うことを聴け」というように、彼は国民を人質に取ったのだ。

日本政府は従わざるを得ない。つまりは日本政府が出来ることであれば何でもできる状況という訳である。そこで城戸が提示した要求というのが、「プロ野球のナイターを試合の最後まで中継させろ」というものだった。

ここでもまた、本作の特徴ともいうべき『全くもって理解できないという狂気の部分』が現れてくる。実際にこの要求は通り、プロ野球のナイターは中断されることなく最後まで放映された。だからといって城戸の何が変わる?

さらに狂気は続く。

次の要求に困った城戸は、よく聞いていたラジオのパーソナリティに何を要求すべきかを尋ねた。つまり、城戸は要求したいことが何もないのだ。原子爆弾を作り上げるほどの執念は一体どこから生まれたのか。分からない、理解できないという混乱が続く。

ただ沢田研二演じる城戸誠をかっこいいと思ってしまうのはどうしてだろうか。

二つ目の要求は、ラジオによって受け取った『ローリングストーンズの日本公演』である。日本政府がどうこうできるギリギリのラインという気がするが、どうにかこうにかして公演の予定を取り付けた。

そして、三つ目の要求は『五億円』であった。

 

これらの要求を受けていたのは、菅原文太演じる山下満州男警部だ。

この山下という警部は、実は城戸と少しばかりの面識がある。実は映画の前半――つまり城戸が原子爆弾を作成している最中――偶然にもバスジャック事件に遭遇してしまった際、果敢にも彼を助けてくれた勇敢な警部だったのだ。

その事件はニュースにも取り上げられ、彼の雄姿は皆の知るところとなった。そんな正義のヒーローを、日本政府と取引する際の中継役として任命した。ここもやはり『全くもって理解できないという狂気の部分』といえる。

はっきり言って日本政府との中継役なんて誰でも良いのではないだろうか。目的さえ達成されるのであれば……もしや山下満州男警部でなければ駄目だったのか? 彼に対する復讐か。いや、城戸が原子爆弾を作るに至った動機に、この警部は関係ない。

ただ最後まで見ると、この山下満州男だけが城戸という人間を理解することのできる唯一の存在だったのではと思う。

ゼロを名乗り原子爆弾男・城戸に協力した沢井零子というラジオのパーソナリティーがいる。彼女は彼の行為を賞賛し、ラジオのクルーを使って逃走をアシストする。彼の顔を知っていながら、警察にはその情報を徹底して隠した。

彼女は彼の思いを理解したからこそ、そのような行動に打って出たのか?

少なくともブログ主は違うと思う。やはり城戸を理解したのは山下警部だけだった。そんな二人の最後の殺し合いは、紛れもない名シーンだった。一度は見るべき映画だと思う。

共感するか、面白いと思うかはさておいて。忘れられない映画になることだけはお約束しよう。