工大生のメモ帳

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ハル遠カラジ 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

人工知能とヒト

情報

作者:遍 柳一

イラスト:白味噌

ざっくりあらすじ

人類のほとんどが消え去った地上にて、少女ハルと武器修理ロボットのテスタは、テスタを冒しているAIMDというロボット特有の病を治療すべく旅をしていた。

感想などなど

ブログ主は工大生である。そのうえ情報工学は専門内で、一時期ではあるものの自然言語処理(翻訳などの技術)を囓ったことがある。だからこそ、こういった人工知能が登場する作品というものは大好物だ。

「人工知能なんてまだまだ身近じゃないでしょ」という方もいるかもしれない。しかし、先ほども書いたような翻訳などでも技術は生かされていたり、最近では画像処理においても人工知能の技術が生かされていたりと、人工知能技術は切っても切り離せないと言っても過言ではないだろう。

本作ではヒト型の人工知能搭載型ロボットが日常に溶け込み、家事などを行うメイド的ロボットから、戦争において前線に立って戦うロボットに至るまで、あらゆる場面で登場する。

そんな世界観の中で、主人公として物語の語り部として描かれているロボットは、戦場において武器の修理や弾丸の製作などを行ってくれる戦場の便利屋のような存在であった。二メートルは下らない巨体と、それに見合った巨大な胴体。その身体を支えるためだろうか、ヒトにはない太いワニのような尻尾を持った姿をしている。

そんな彼女……どうやら設定としては女性らしい……と共に旅をするのは、ヒトを撃ち殺すという行為に躊躇いがなく、どこか壊れてしまっているような印象を受ける少女・ハル。

例え人類のほとんどがいなくなってしまって、社会という概念がどこかへ消えてしまった世界といえど、ヒトを撃ち殺すという行為に躊躇いもなくなってしまうものだろうか。実際にそういった環境におかれたことがないのでブログ主には分からない。

 

どうやら人工知能も病気にかかることがあるらしい。病名はAIMD。回路のどこかが熱で溶けたか、単純に耐久が限界に達したか、そういったことではなく、人工知能の思考上に突如として発生する欠陥のようなものであるようだ。

その欠陥により、一時的に動作が完全に停止してしまったり、もしくは見境なく大暴れしてしまったりと異常行動を頻発するようになってしまう。幸いと言うべきか、テスタは突如として暴れるということはなく、数十分という短い間、全機能が停止してしまうという症状であった。

しかし一瞬の判断の遅れが原因で、死人がでるような戦場では命取り。廃棄処分は免れたものの、後ろへと追いやられ、治療に専念することとなった。その治療期間中、人類が突如としていなくなった……という流れであるようだ。

つまりは骨肉の戦い、血で血を洗うような戦争は、ある意味、終わったのだ。代わりに人類はいなくなってしまったが。

 

そんな世界を、ヒトによって作られた人工知能・テスタ視点で覗いていくことになる。ハルという主人がテスタのためを思い、口が悪いながらも言葉の端々から感じられる優しさに触れ、回想シーンで『世界がこうなってしまった過程』が少しずつ描かれていく。

人類のために尽くすことを目的として作られた人工知能。戦場において部隊のメンバーから頼りにされながら、武器の製造と修理をし続けていた彼女。しかし、そんな戦場で、自分が作り出した弾丸が、未だ幼い少年の命を奪っているという当たり前の事実を知ってしまう。人工知能の病気AIMDが発症したきっかけというのは、どうやらその事実に気付いたことであるようだ。

プログラムにおいて相反するような条件、つまりは制作者が予期していないような例外が発生したとき、ヒトであれば自己で考えて処理することができる。人工知能もそういった柔軟性を兼ね備えていることが理想である。

さて、『自身が作り出した弾丸が、未だ幼い少年の命を奪っている』という事実は、『人類のために尽くす』という基本理念と相反してしまっている。そのことで発生したバグなのだろうか。読み進めていくと、そう単純な話でもないということが分かっていく。

人工知能が罪悪感を覚えたのか? これ以上、戦場にいたくないと思ったのか? ストレスを感じたのか? どれもこれも、人工知能というプログラムのバグ要因となるとは思えないような単語が出てきて、人工知能に向けられた治療の形がなんら人と大差ないように思われて仕方ない。

テスタのAIMDが発症した理由……その答えは旅の一つの終着点で明らかとなる。全体的に語り口や、目的というものが一貫していて、複雑そうなテーマとは相反してとても読みやすく分かりやすい作品だと感じた。

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