工大生のメモ帳

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ミミズクと夜の王 感想

※ネタバレをしないように書いています。

崩壊と再生の物語

情報

作者:紅玉いづき

イラスト:磯野宏夫

ざっくりあらすじ

魔物のはびこる森に、一人の少女がやって来た。彼女の願いはただ一つだけ。

「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」

全ての始まりは、美しい月夜だった。

感想などなど

ライトノベルでファンタジーといえば、異世界転生の昨今。もう異世界転生には飽き飽きだという方も多いと思います。そんな中、王道とも言えるファンタジーが本作。読んでいると「そういえば、こんな作品がファンタジーだった気がする」と、懐かしい思いすらこみ上げてきます。

舞台は魔物が住むとされる森と優秀な王が治める国の二つ。

主人公の少女は額に数字を彫られた奴隷であり、人間社会で酷い扱いを受けてきました。殴る蹴るは当たり前、任される仕事は死んだ人の解体。まともな教育を受けることも叶わず、身も心もやつれた状態。

そんな彼女は何故、人に恐れられる魔物の住む森へ来たのか?

そこででてくるのが、あらすじでも示しました彼女の願いです。森に住む魔物に自分のことを食べて貰うために来たのでした。

ここでちょっと考えるべきなのは、結局のところ何故魔物に喰われて死にたいのか? ということです。

自殺の方法なんて、この世の中腐るほどあります。その中でなぜ魔物に喰われるという選択をしたのか。

魔物の森に来て、彼女は自分のことをミミズクと名乗ります。夜の王との会話では自分のことを人間と呼ばないで・・・・・・と言います。

それらの意味することは何なのでしょうか。考えていくと面白いかも知れません。

 

さて、そんな死にたがりのミミズクの願いを、夜の王が叶えてくれることはありませんでした。魔物のはびこる森で、フクロウとミミズクによって名付けられた森の王との、静かであり、どこか美しい生活が淡々と綴られていきます。

それはこれまでの奴隷生活とは打って変わったものです。他の存在に感謝され、暴力も振るわれることのない・・・・・・今まで経験したことのないものでした。

しかし、魔物が人々に恐れられているということに変わりありません。そんな畏怖の対象である魔物を、国を引っ張る国王が放っておくでしょうか。国の発展のためには、遅かれ早かれ、対峙しなければならない問題です。

そうして頭を悩ませていると、国に「森に少女が捕らえられている」という情報が入ります。実際は魔物達によって助けられながら、平和に生きていることなど、国王には想像も付かないことでしょう。

森の王こと魔王を倒して少女を助けなければいけない・・・・・・国王として至極真っ当な発想です。まぁ、裏に何か怪しい思惑がうごめいている気もしますが。

 

大抵の物語では、悪意を持っている人物が登場します。だからこそ事件が発生し、物語として動きが起きて面白くなっていくものです。

しかし、この作品は違います。登場人物がみんないい人で、読んでいて心がジンと温かくなります。そんな登場人物達が織りなす純粋な物語に、心打たれてしまいました。

最近はこんな作品少ないです。ファンタジーといえば戦闘に強敵の数々といったアニメ映えするアクションシーンが重要視されつつある気がします。否定するつもりもないのですが、たまには「ひたすらに不純物を取り除いた綺麗な物語」もいいのではないでしょうか。