※ネタバレをしないように書いています。
コーヒーとロボット
情報
作者:芦菜野ひとし
出版:アフタヌーンKC
試し読み:ヨコハマ買い出し紀行 (1)
ざっくりあらすじ
西の岬のコーヒー屋にて、突然どこかへ行ってしまったオーナーの帰りを待ち続けるロボット・アルファ。年々上がっていく海面が上がっていく世界で、近所の人々と交流を深めながら生きていく彼女の日常を綴った物語。
「鋼の香る夜」「入江のミサゴ」「しましまのごろごろ」「雨とその後」「エンドレス町内会」「ブレ寝正月」「午前2/2」
感想などなど
アンドロイドを題材として作品は、この世に腐るほどある。あなた方の脳裏にも、きっと思い浮かぶ作品があるはずだ。
本作の主人公は確かにアンドロイドだ。しかし読み進めていると、コーヒー屋のオーナー代理として働くアルファのことを、アンドロイドであるということをふと忘れてしまう。
彼女がアンドロイドであるということを全面に押し出した内容として、第四話「雨とその後」では雷が直撃して修理されるアルファのエピソードもあるが、基本的に世界的に廃れつつある人間社会を生きていく日常を綴った内容となっている。
例えば。
第一話「鋼の香る夜」ではコーヒー屋に来たオジサンと談笑しつつ、テーブルに置かれた護身用の拳銃というちょっとして非日常――アルファ達にとっては珍しくない風景――の中で、ちょっと楽器を演奏したりしつつ思い出に浸っていく。
第二話「入江のミサゴ」では、昔から入江に住んでいるミサゴという女性の話となっている。ずっと素っ裸で魚を捕って住んでいるという彼女は、ずっと長いこと若い姿のままであり、ブログ主はアンドロイドの類いではないか? と疑っているが、その真相がこの第二話で描かれることはない。アルファ達にとって、ミサゴの正体なんてどうでもいいのだろう。ただ近所にいる女性でしかない。
第三話「しましまのごろごろ」では、近所のオジサンが収穫しすぎてしまったスイカを大量に貰ってしまったアルファが、何とか腐る前にそれらを処理してしまおうと奮闘する内容となっている。リボンをつけて可愛らしさを演出されたスイカは、なかなかにシュールだ。また、ここら一帯の住民達もスイカを譲り受けており、皆が皆、スイカの処理に明け暮れる様は、少しばかりクスリと来る面白さがある。
第四話「雨とその後」は先ほども書いた通り、雷が直撃したアルファが修理されていく内容となっている。普通だったら死んでいてグロくなっているであろう雷直撃の一コマは衝撃的だ。その後、雷が直撃したにも関わらず髪の心配をするアルファなど、アンドロイドと人間が混在しているようなチグハグ感を覚える。その辺りも楽しめるエピソードとなっている。
第五話「エンドレス町内会」では酒を飲み酔っ払ったアルファを見ることができる。第四話とは打って変わって、「やっぱお前人間だろ」と突っ込みを入れたくなるような人間らしい不完全さがそこにはあった。
第六話「ブレ寝正月」では初日の出を見るために、近所の子供を乗せてバイクで移動する。正月は初日の出なんか見ずに、ずっと寝て過ごす自分が恥ずかしくなってくる。初日の出に新年の訪れを感じられないと語るアルファ。もしかすると、ブログ主はまだ新年の訪れを感じたことがないのかもしれない。
第七話「午前2/2」は、どっかの誰かが荷物を配達に来た……ただそれだけの話。コーヒーを飲みながら、感慨にふける辺り、やはり人間にしか見えない。
それぞれの話で描いているのは、淡々とした日常風景というほかない。拳銃や沈みつつある街並みという退廃的要素を含んでいながら、どこか遠くない世界が描かれているような感覚が、この作品の特徴だと思う。コーヒーでも飲みながら、ブレイクの片手間にこの漫画はどうだろう。きっとぴったりだと思う。